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フルカネルリだ。今年は強制で海にいくことになった。しかも水着でだ。

……実に憂鬱だ。

《……頑張れ、フルカネルリ》

………こんなことで頑張りたくはないのだがな…………。


憂鬱になっていようが何をしていようが時間は止まってくれるはずもなく、私は砂浜でタオルを肩にかけてさらにパレオで腰を隠している。

……死にたくなってきた。

《自殺厳禁だヨー!》

『……死んだら、つまんないわよぉ……?』

…………はぁ……わかっては、いるさ……。

視線を下に落とすが、爪先は見えない。かわりに小学生としては破格の、女としては控えめの乳房が目に入る。

…………。

《じ、自殺しようとするとフルカネルリの体の頑丈さだけものすっごい上がるようにしたから無駄だヨー!だからだから即死級の術式なんて組むのをやめてヨー!!》

『……落ち着きなさいなぁ……ねぇ、瑠璃……?』

…………仕方がないか。確かにこのような所で自殺してもなんの特にもならないし、諦めるとしよう。……今は。

《……ふぅ……よかったヨー》

『……死なれちゃぁ、困るものねぇ……』

……そうか。

………はぁ…………。


砂浜に突き刺されたビーチパラソルの日陰でシャツを着たまま海を眺める。

……下は水着のままだがな…………。

……………………。

《だから止めてってバー!》

……ああ。すまない、つい衝動的に。

『……衝動的に、自殺なんて……ダメよぉ……?』

……そうだな。

……はぁ………。

……うむ、そろそろ切り替えよう。そうしなければ私の胃がストレスでボロボロになってしまいそうだ。

なったことは諦め、これからはこうなる前に防げるように努力するべきだな。

……全力で。

《……無駄にきりっと決意したネー?》

『……ふふふ……瑠璃にとっては、大切なことなんでしょぅ……?』

そう、私にとってはとても大切だ。他の者が何を言おうが関係ない。私は、このようなことを回避するために全力を尽くそう。

《全力まで尽くしちゃうノー!?》

尽くすとも。お前が副校長をからかうことに全力を尽くすようにな。わかるか? ナイアよ。

《……なんとなくだけどネー》

『……それで、いいんじゃないかしらぁ……? うふふふ……♪』

人の事を全て理解するのは難しいことだからな。

……神ならば簡単なのかもしれないが。

《フルカネルリのこと以外ならそれなりにわかるんだけどネー》

そうか。


……とりあえず、いつまでも落ち込んでいても仕方がないし、泳ぐか。本格的に泳ぐのは初めてだ。

シャツを脱いで、麦わら帽を被っている母に預ける。

それからゆっくりと海に向かって歩き出し、少しずつ深いところへ。前世では海に行くときは泳ぐためではなく研究のためだったので、水に入ることなど無かったからな。

太股まで海に浸かり、そこからさらにゆっくりと進んで行く。

……おや、浮いた。まあ人間は肺に空気を入れておけば浮かぶようにできているからな。

《沈んでたら邪神救助隊による高速救助が始まるヨー》

『……亡霊救助隊も……お忘れなくねぇ……♪』

忘れようにも忘れられない名前だな。

《……ツッコミ待ちですヨー?》

む? そうだったか。

……ふむ…………。

…………うーむ……………。

《……無理にやろうとしないでもいいヨー。もう慣れてきちゃったしネー》

そうか。すまんな。


しばらく泳ぎ続けていたらずいぶんと沖の方に流されていた。

……泳ぐのにも慣れてきたことだし、そろそろ戻るとするか。

……体も冷えてきたしな。


海から上がり、母のところへ戻ると、そこには母だけではなく父もいた。

「あ、瑠璃ちゃん。おかえりー♪」

「ただいま」

そう言いながらビーチパラソルの日陰に入る。

父の手には買ってきたばかりと思われる焼きそばが二つ。差し出されたそれのうち迷わず片方を受け取って食べ始める。

……旨くもなければ不味くもない、よくある味だな。






流石のフルカネルリも今日は疲れたらしく、泊まっている民宿に戻るとシャワーを浴びてすぐに寝ちゃった。

……まあ、五、六回自殺しようとすれば疲れるのも当たり前かナー?

すやすやと眠るフルカネルリは、昼にあんなことをするような子にはけして見えない。演技をしてるわけじゃなくって、ただ‘その方が都合がいいから’自分の中身を外に出さないだけ。たぶん聞かれたら普通に答えるし、出すべき時はなんのためらいもなく地を出す。

……けっこう長い間一緒にいたのに、あんまりフルカネルリのこと知らないナー。

……でもまあ、こんな生活も、悪くないよネー?



  暢気なナイアのフルカネルリの考察。



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