2-29
フルカネルリだ。気が付けばもう3月。私達が二年生で居るのもこの一月が最後になるな。
《そうだネー。寂しかったりすルー?》
いや。……だが、なぜそんなことを聞く?
《聞いてみただけだヨー》
そうか。
また六年生が卒業して行き、教師たちも涙を流したり嬉しがったりと様々な反応を返している。
「きゅう」
「クトおぉぉおおぉぉぉっぽげぶっ!!」
「こんな時にまで騒ぐなっ!いいからさっさとクトちゃんを寝かしてきなさい!」
だが、やはりあの三人は……三柱か? ……まあいい、三人はいつも通りだな。
《それが神だヨー》
そうか。
「……だ、だめ……今日は、最後まで…………っ」
おや、校長が復活したぞ?
《よく頑張った!偉いヨー!》
そうだな。顔色は最悪に近いが、よく頑張っている。
「…大丈夫かなぁ……?」
「平気だろう。あの校長ならば自分の体の事は自分が一番理解しているだろうしな。どうしても駄目なら自分から保健室に行くだろう」
多分だが。
「……そっか」
「ああ」
卒業式も終わり、ザワザワと騒がしい教室の中で、今日の午後は何をするかを考える。
「瑠璃っ」
「……ああ、白兎か。どうした?」
白兎はやはりどんな時でも大抵元気だ。今も純粋な笑みを浮かべ、ハキハキとした声で私に話しかけてくる。
「あのね、このあと、一緒に遊びに行かない?」
……ふむ。この後は特にやることも無いし、いつもやっている力のコントロールはいつでも出来る。現に今も細い紐に術式を刻みながら話をしているわけだしな。
……待てよ? この紐をもっと細くし、糸そのものに術式を描かせたまま編み込めないか?
………やってみる価値は在るな。
……それはそれとして。
「そうだな、どこに行く?」
今日は白兎に付き合うとしようか。
ちなみに私が作っている糸や紐だが、これは基本的に他人には見ることは出来ないらしい。
《そりゃそうだヨー。元々この世界に異能ってのはないんだからサー。この世界の人間が霊気やら妖気やらそんな物を見るなんて無理だってバー》
神ならばどうだ?
《見えるだろうネー》
やはりそうか。こればかりは仕方ないな。
《まあ、頑張ってネー》
頑張るさ。異世界で知識を得る前に殺されたり奴隷にされたりしてはかなわんからな。
《すっごい嫌な所までしっかり考えてルー!?》
それは考えるだろう。最悪を考えておくことは大切だぞ?
「瑠璃ー?」
「ああ、すまない。すぐに行く!」
白兎に呼ばれたため、私は鞄に教科書を詰めてさっさと教室を出た。
……先ほど考え付いた術式を直接織り込む方法を実行しながら。
久しぶりに私の家に瑠璃が来た。さて、遊びましょうか!
……そう考えていた頃が私にもありました。
今日の瑠璃はなんだかいつも以上に大人しい。……って言うかちょっとぼーっとしてる気がする。
……イタズラしちゃうよ?
瑠璃の後ろからそっと近づいて、いきなり瑠璃の目を
「白兎」
「はいっ!」
……いきなり話しかけられた。ビックリしてつい声が大きくなっちゃったけど…………バレてないよね?
「……悪戯は程々にな?」
ってバレてたー!?
何で!? 何でバレたの!?
そう思いながら瑠璃を見ると、ちょいちょい、と指で前を指しているのが見えた。
そっちの方に目をやってみると……そこにあったのは鏡。あれに映った私を見ていたらしい。
……今度から気を付けよっと。
「……知っているかどうかはわからないが、一応言っておこう」
? なになに?
「お前は……何かを企んでいると、鼻をひくつかせる癖がある」
「嘘っ!?」
慌てて鼻を抑える。
…………あれ? これって‘なにかしら企んでます’って言ってるようなものじゃない……?
「…白兎……?」
にっこりと笑った瑠璃がこんなに怖いと思ったのは初めてです。
……その後はずっと勉強してました。……うぅ……あたまいたい…………
少なくとも同情の余地はない白兎のある卒業式の午後の話