十万アクセス記念外伝
十万アクセス行ったようなので投稿します。
次回は二十万アクセスです。
……そこまで行けばの話ですが。
これは昔々の話。まだまだナイアが幼くて、あんまり物事を深く考えなかった頃の話。
とある日に、ボクはあることを思い付いた。
そうだ、女の子になってそのまま散歩でもしてみようかナー。そう思った理由? その場のノリだけドー?
思い付いたらすぐに行動しないとネー。ということで実際にやってみる。
髪を伸ばしテー、顔の形と体つきを女の子っぽくしテー、声もちょっと高くしテー……これで良いかナー。
後は服を変えテー、女の子っぽい靴を履いテー、……行ってきまーす!
散歩の途中でいつもならあり得ないことが起きた。
簡単に言うとナンパされた。バカじゃないのかナー?
いきなり話しかけてきたのは全然知らない誰か。ボクはさっさと断ったんだけど、なんかすっごくしつこい上に自分が世界で一番偉いって感じの雰囲気を纏ってボクがこのまま拒否を続けると暴力に訴えてきそうな気がする。
……困ったナー。女の子の体には慣れてないから力がでないんだけドー。
その後にやっぱり暴力に訴えてきたそいつは、たまたまそこにいたクトゥグアに叩き潰されてすごすごと退散していった。
「……ったく……だいじょう……ぶ…………」
……あレー? なんでクトゥグアがそこで黙るんだろうナー?
「あの……ありがとう」
まあ、助けてもらったしお礼は言っておく。口調でバレないように意識して口調を変えてやると、もうほとんどボクの面影は無いからいくらクトゥグアでもわかんないはず。
……わかんないよネー?
そうやってボクが考え込んでいると、クトゥグアが再起動した。ただし、顔は真っ赤だ。
はっはっハー、まさかボクに一目惚れとか無いよネー?
……無いよネー?
クトゥグアの様子をじっと見てみる。
顔に血が集まっているのか赤い。さらに言えば熱くなっている。流石クトゥグア、ここまで暑いヨー。
見えないところで大汗をかいている。心臓がさっきからうるさいほどに鳴っているみたいだけど、ここまで変わっていればそうなるだろうネー。
……ねえ。不安になってきたんだけど、ほんとに一目惚れとか無いよネー?
結論から言うと、あった。無いと信じたかったけど、あった。
だってなんかいきなり告白されたシー。しかもかなり熱く。「流石は生ける炎」って本気で思うくらい熱かったヨー。
本気で勘弁して欲しいって思ったヨー。なんでかって言うと……体に引っ張られたのかどうかは知らないけど、満更でもなかったからなんだよネー。ほんとにもう勘弁してほしいネー。
その時は謝ってすぐに姿を消した。そして女の子の格好をやめて、姿と声を戻してやっと一息つけた。
……もう絶対クトゥグアの前では女の子の姿になるのはやめようと心に誓いつつネー。
そして次の日にクトゥグアから恋の悩みをぶちまけられた。あまりにも恥ずかしすぎることを連発してくるのでついぶん殴ってしまったボクを責めないでほしいナー?
ナイアにも若い頃があったというだけの話
その日に外に出ようと思ったのはただの偶然だった。
なんとなく暇で仕方ないが、やることは無いしクトも居ない。ナイアには何故か連絡がつかない。
だから俺は仕方なく家を出て、ナイアの家の近くまで散歩でもするかと歩き始めた。
その途中で、俺は‘彼女’に出会った。
始めに遠目で見た時は何も感じなかった。その時‘彼女’は柄の悪そうな男に言い寄られて、困ったように懇懇とその相手を説得していた。
しかしその相手は‘彼女’の言葉を聞こうともせずに‘彼女’を連れていこうとしているらしい。
それが、何故か酷く気に障った。
‘彼女’がついてくることがないと知ったのか、その男は‘彼女’の手を掴んだ。それは‘彼女’にとっては痛みを感じるほどであったらしく、‘彼女’は少しだけ顔をしかめた。
俺の体は勝手に動き、‘彼女’の手を掴んでいるその男の手首を握り潰す勢いで掴む。
これでも俺は神としての格はそれなりに上の方であると自負している。そこらの木っ端神とはまさに次元が違う。
と言うか、邪神学校という所がまずそういう奴等の集まりだ。ナイアもアブホースもハスターもアトラク・ナクアもイタクァも、皆ある程度以上の神格とそれに伴う実力を持っている。
普段の行動を見ていると疑わしく思うのも仕方無いが。
そんな俺が潰す勢いで掴めば、大体の奴は潰れる。それは目の前の奴も例外ではなく、その腕はギシギシと軋みをあげている。
……ナイアに毒されたのか、勝手に体か加減してやがる。
「嫌がっているだろう? 諦めてさっさと消えたらどうだ?」
それだけ言って手を離すと、その男は俺を苦々しい目で睨んでから姿を消した。
それを確認してから俺は‘彼女’に顔を向けて…………
言葉を失った。
……いや、言葉だけじゃない。俺の世界から‘彼女’と俺以外の存在が姿を消した。
美しい。
最初に戻ってきたのはその言葉だった。
あの男があそこまで執着し、格の違う神である俺にあのような視線を向けたのも理解できるほどの美しさだ。
黄金比ではない。なのに何故かこれ以上に美しいものを見たことが無いと断言できる。
どこが美しいとはっきり言うことはできない、しかしとても美しい。
炎の神性である俺の背に震えが走る。
その時、‘彼女’が口を開いた。
「あの、ありがとう」
‘彼女’の声はまだどこか震えていた。
気付いた時には俺は‘彼女’に頭を下げて、こう言っていた。
「あんたに惚れた!俺と夫婦になってくれ!」
「え、えぇーっ!?」
結局この時は‘彼女’に断られてしまった。当然だな。俺が同じ事をされてもおそらく断る。
だから、俺はこの日だけ散歩に付き合ってもらうことにした。
色々な所に行った。‘彼女’に付いていったり、逆に俺が案内したりした。
しかし、楽しいことは時間を加速させる。それはここでも同じ。もう‘彼女’とは別れなくてはならない。
最後に、聞いた。
「俺は、クトゥグア。お前は?」
すると‘彼女’は笑って言った。
「教えてあげません」
胃袋に鉛が転がり込んできたような感覚がした。
だが、‘彼女’の言葉はまだ終わっていなかった。
「……でも、次に会ったときにまだ私の事を覚えていてくれたら、教えてあげます」
そう言って‘彼女’はくるりと身を翻らせて姿を消した。
……覚えている。いつまでだって覚えていてみせる。
だから、今度は名前を教えてくれ―――
―――って訳だっていてぇ!? 何で殴んだよ!?」
「頼むから黙ってそして死んでネー?」
「ちょ、まっ!?」
「大丈夫だヨー、ちゃんとアブホースの分は残しておくからネー」
「欠片も大丈夫じゃねえ!? つーか何でお前がそんな赤くなっ」
「黙って死ね」
「怖っ!?」
そしてクトゥグアの悲惨な初恋。ちなみに次の恋はアブホース。