2-26
なんだか最近書く速度が遅くなってきたような気がします。
フルカネルリだ。スキー合宿は何事もなく終わり、今は家で寛いでいる。
……アザギの持ってきた妖怪のサンプルを弄りながら。
《そんなのどこで取ってきたのサー!?》
雪山に消えていった時だ。あの後私に雪娘という妖怪の服の切れ端だと言って渡してくれた。ならばこれはもう研究するしか無いだろう。
《……そうなノー?》
少なくとも私にとってはな。
軽く実験してみるが、どうやらこの布自体が熱を吸収し、最高でも0度にまでしているらしい。最低は計っていないが解析結果より恐らく絶対零度寸前。
……明らかに物理法則に真っ正面から喧嘩を売っているな。吸い込んだ熱量はどこに行った。
さらに言うと、どうやらこの布は燃えないようにできているようだ。熱量を無限に吸い込み続けるのだから当たり前と言えば当たり前だが。
……本当に、吸い込んだ熱がどこに行くのか……実に興味深い。
……まあ、解析してわかっているのだがな。
消えた熱量は、何故かこの布を持っている者の体の中の何かを消費して消えるらしい。それも興味深いな。
《それは多分妖力だヨー》
妖力だと? なんだそれは? 名前から察するに妖怪の持つ力のようだが。
《そうだヨー。実はフルカネルリには人間なのに妖力があるんだよネー》
ほう? またお前が何かやったのか?
《そうサー。小学生に上がるときにちょちょいとネー。名付けて『全ての微才』!》
じゃじゃーん!と頭の中でナイアが騒いでいる。……『全ての微才』か…………どのようなものだ?
《説明するヨー。この能力によってフルカネルリは、ありとあらゆる物に対してほんの少しだけ才能を持ったヨー。具体的には魔力とか氣とか妖力とか霊力とか精神力とかそんなやつ。もちろん適正もちゃんと全部あるからネー》
そうか。ならばこれから研究の幅が一気に広がるな。
目指すはとりあえず自分で魔法科学を作り上げることだ。
……ああ、夢は広がる一方だ……あははは、はは、ははははははははは!
《フルカネルリが壊れター!?》
気のせいだ。なあ、アザギ?
『……そうよねぇ、瑠璃……?』
《無駄にいいコンビネーションを発揮しター!?》
はいはい、そうだな。
……アザギ。私はお前と同じ力をほんの少しだが持っているらしいぞ?
『……へぇ……そうなの……ふふふ……今度、少しだけ教えてあげるわぁ……♪』
ありがとうな、アザギ。
《……あレー? ボクは無視なノー?》
いやいや、そんな訳がないだろう?
お前は神だ。
《……ボクが言ったのは無視であって虫じゃないヨー!?》
知っている。
《わーんボケ役フルカネルリにとられター!?》
『……大丈夫よぉ……あなたも、ちゃんとボケ役になってるからねぇ……?』
《……ほ、ほんとに? ほんとにボクもボケていいノー?》
『……くすくす……ええ、大丈夫よぉ……♪』
やっター!と喜んでいるナイアには、アザギが続けた言葉は聞こえていなかった。
『……まあ、不憫ボケだけどねぇ……あははは……♪』
とある山の奥深くで、一人の少女が声を出さずに泣いていた。
涙が溢れる瞳を無理矢理に見開き、星の見えない夜の曇り空を睨み付けているその少女。
周囲には轟々と吹雪が吹きすさび、その少女の肢体を覆い隠していた。
しかし、人間ならばあっという間に凍りついてしまうような吹雪の中に立っている少女は、片袖が綺麗に切り取られた白い和服に身を包みながら平然とそこに立っていた。
ギリ……と少女の歯が音を立てて軋む。手は強く握りすぎて爪が手の皮を破り、血が滴り落ちている。
『……殺、す』
その少女から出たとは思えない低い声が漏れ、辺りの吹雪がさらに勢いを増した。
『……殺、す…!』
その目は憎悪に満ち、ある相手だけを睨み付ける。
『……母様の形見を傷つけた……』
その視線の先にはなにもいない。しかし、その少女には見えていた。
それは、女に見えた。
そのナニカは、笑っていた。
そのダレカは、狂っていた。
それは、一体の亡霊だった。
その幻に、少女は言った。
『……貴様だけは、絶対に……』
その亡霊は、名をアザギと言った。
『……殺す!』
少女は吠えた。ありったけの憎悪と、なけなしの妖気を込めて。
『……忘れるな!貴様は、貴様だけは!』
雪の妖怪は、泣くように叫んだ。
『貴様だけは、この氷雨が!』
辺りには吹雪が吹く中で。
『殺してやる!!』
少女は、咆哮した。
復讐の道を歩き始めた雪娘、氷雨の話