2-14
フルカネルリだ。初日の出は一応拝んだが、何か良いことでもあるのだろうか?
……ナイア? どうした?
いつもならばすぐさま軽口を叩くはずのナイアが、今日に限って何も言ってこない。
不思議に思っていると、頭の中に妙な物を見つけた。
いつもナイアがいるあたりに、何故か立て札に貼り付けられた紙。
それに目を通してみる。
《フルカネルリへ
ちょっとかーさんに顔見せに里帰りしてくるヨー。一応、直ぐに帰ってくる予定だからのんびり待っててネー。
ナイア
p.s お土産は期待してて良いヨー》
……なるほど、里帰りか。
まあ、たまには良いのではないか?
「瑠璃っ!あけましておめでとーっ!」
「ああ。おめでとう」
私が答えると白兎はとても嬉しそうに笑った。
『……おめでとぉ……うふふふふふふ…………♪』
おお、アザギか。幽霊が神社に来て平気なのか?
『……大丈夫よぉ……? ……ここの神って……三流だものぉ……うふふ……』
ほう? そうなのか?
『……えぇ……そうよぉ………?』
なるほどな。
……となると、別に祈る意味は無いのか?
『……ほとんどねぇ……?…………くすくすくす……♪』
そうか。
「……あれ? 瑠璃は神様にお願いしないの?」
「ああ。もうすでに色々と聞いてもらっているからな」
「へー、そうなんだ?」「ああそうだ」
神は神でも邪神だがな。
お年玉を父と母から貰う。五千円ずつ計一万。何に使うか迷うところだ。
「大切に使うのよ?」
「はい。お母さん」
……貯めておくとするか。今はどうしても欲しいものなど無いことだし。
もらったそれを自分の部屋の本の間に隠す。実際はこんなことは必要ないと思うのだが、一応な。
『……いいんじゃないかしらぁ……?』
そうか。
家に戻ってすぐに布団に入る。この体で夜更かしはなかなか辛いのだ。……まあ、できないわけではないのだが。
………さて、寝るとしようか。一週間後には学校だ。
瑠璃の上でふわふわと浮かびながら眠っている瑠璃の顔を覗き込む。
………眠っている時はこんなに子供らしい顔なのに、起きているときはどうしてあんなに愛想が無いのかしらねぇ?
表情がないわけではない。ちゃんと笑うし、怒るし、疑問の表情をとることもある。驚くこともあるし、楽しむこともできているはずだ。
それでも瑠璃は愛想がない。老成していると言っても良い。
子供のように知りたがりで、大人のように行動し、老人のように達観している。わたしにとって瑠璃とはそんな妙な存在だ。
だが、わたしはそんな 瑠璃の事が、とても、愛しい。そう感じている。
昔のことを思い出す。わたしも昔は生きていた。死因はいきなり後ろから殴られての頭蓋骨骨折とその時に折られた骨によって脳が潰されたこと。
わたしを殺した相手はもう生きていない。少しだけ力をいれて念じたらころっと死んだ。心臓麻痺だったそうだ。
それから長いこと存在してきたけれど、瑠璃みたいな存在に会ったことはなかった。
神に気に入られ、神に生き返ることを命じられ、神と共に人生を歩んで行く。そんな瑠璃の姿に、わたしは心底惚れてしまった。
だからわたしは瑠璃に取り憑いた。一緒にいるために。できるだけ長く、できるだけ多くの時間を瑠璃と一緒に過ごすためだけに、瑠璃の左肩に自縛した。
……たまに右肩に移動したりもするけれど。
瑠璃に危険があって、それを瑠璃が嫌がるならば、わたしは危険から瑠璃を遠ざけよう。
危険を望み、成長しようとするならば、わたしはそれを手助けしよう。
そしてそれらの危険が瑠璃の許容範囲を越えたなら、わたしがそれを排除しよう。生憎わたしは霊だ。生きているものが相手ならば念じればある程度なんとでもなるし、物体でもどうにかできる。
最悪、あの邪神が瑠璃を守るだろう。あの邪神も瑠璃のことを気に入っているようだし。
………あ。瑠璃が目を覚ます。
わたしはいつものように瑠璃に言葉をかける。
『…あらぁ……おはよぅ……』
わたしの声に反応したらしく、瑠璃はわたしの方へと顔を向けてくる。
そして一言、
「……ああ、おはよう、アザギ」
わたしにこう言うのだった。
意外と殺人経験有りなアザギの回想とちよっとした決意
フルカネルリは悪霊の加護を手にいれた。
危険から逃れやすくなりますが、たまにアザギが暴走して呪いを撒き散らすようになりました。