異世界編 5-22
フルカネルリだ。私の作った英雄が子を産み、育てている。勇者システムで引き継がれた記憶の中に子育てに関する記憶など殆ど無いだろうが、それでも聞きかじりの知識と手探りでの行動によって、産まれた赤子はすくすくと成長していった。
まあ、子供の顔は私と同じなのだが、それを知らない二人の英雄は異常に気付くこともなくなんとか子供を育てている。
……まあ、私の事を知らなければ知りようがないことではあるのだが、私にとっては相手がその事実を知っていようが知らなかろうがどちらでもいい。
ただ、戦うことを強いられて殆どそれしかしてこなかった英雄達が、自分達なりに必死になって子供を育てているという事実さえあれば。
それを観察し、記録し、そして滅ぼされた二つの迷宮が再生するまで待つ。再生したばかりの迷宮はあまり強くはないだろうが、それでも英雄を失った奴等にはかなり辛い戦いとなることだろう。
……何しろ通常の迷宮とは違って私の迷宮の中身は成長する。放置しておけばモンスターは相殺を繰り返し、進化し、糧を喰らい、どこまででも強くなる。
よくあるRPGで言うと、主人公が始めに迷宮に潜ってあっという間に倒され、強くなってリベンジしようと他の所でレベルを上げてからもう一度潜ってみると、かけた時間に比例して中の魔物が強化されている……と言うことが普通に起きると言うだけだ。
《クリアできないような気がするんだけドー!?》
そんなことはない。確かに迷宮内での魔物は外の魔物に比べて濃厚な魔力の中で育ったせいか1レベルで上がる能力値が大きかったりもするが、それは入ってきた相手も同じ。確かに迷宮内で生まれ育った野兎は外でドラゴン(ただし老竜)と互角に戦えるという試算も出ているし、外の魔物の能力値から考えて初期から最低でも1000くらいは無いときついことは間違いないが、それでも1000程度ならなんとかなるはずだ。
『名も無き研究者の実験場』ならともかく、『死せる勇者の墳墓』と『活ける石兵の陳列棚』は余裕のはず。なにしろボスが同レベル帯だからな。
ただし、『陳列棚』のボスは強くなってもその体積が増える程度で戦闘方法は変わらないが、『墳墓』のボスは加速度的に強くなっていく。
蟲と植物が吐き出す瘴気と、アンデッドと植物が吐き出す怨念。その二つを糧として取り込み続ければ、アンデッド・ブレイブキメラの身体は強靭な鎧に覆われるようになり、手に持つ武器はその禍々しさと威力を増し、ステータスが上昇して機動力や筋力だけではなく魔法の威力すらも上昇するようになり、生者にのみ反応する瘴気等を使った罠がいつの間にか作られ、更には従者すら増えていく設定になっている。
ちなみに、このまま順調に増えていくと前衛にタワーシールド持ちタンカーとカイトシールド+片手剣の万能屋、中衛に槍持ちとボウガンor弓、後衛に魔法使い、遊撃に弓と槍を持つ騎兵というアンデッドの群を率い、どの場所でも一線級の能力を持つアンデッドブレイブキメラが将として現れるようになる。
前回の英雄達による戦いの時にはそこまで酷くはなっていなかったが、外にまで迷宮内のモンスターが現れるようになったら間違いなくそこまで行っていると思ってくれていい。
……もしかしたらさらに工兵や暗殺兵が現れて罠を増築したり道中暗殺を仕掛けてきたりするようになるかもしれないが、そうなったとしても私に責任は無い。進化の方向性は各々に任せているからな。どんなものに進化しようが私がどうこう言うことはない。
ただし、本当に兵数が増えたとしたらそれだけ個体あたりの成長速度は遅くなる。その分迷宮内の魔物密度が上がっているからある程度は補填できるし、強化された魔物が吐き出す怨念と瘴気は濃度と質が上がるのでそこまで遅くなるわけではないが……やはり一体と百体とでは……な?
そう言う訳で、狙ったわけではないが殆どの英雄の血筋が絶えたところでイージーモードはここまでだ。これから迷宮内部で成長した魔物はそのまま増えて強くなる。強くなったら新たに同胞や下僕を生み、数を増やし続けていつかは地上を征服する。
今までは地上に出れば弱体化していたが、これからは地上すらも迷宮の一部として開拓される。リッチや魔蟲司祭によって祝福された地上は迷宮と同じ扱いになり、そこを地上と同じ扱いに戻すにはその場に居る魔物を殲滅して瘴気と怨念を浄化する必要がある。
そう言うのは神官が得意とするところだが、実のところ神官でなくとも戦士と魔法使いがいればなんとかなることがわかっている。
戦士は気を用いて瘴気を払い、魔法使いは魔力を使って怨念を祓うことができる。流石にLvが500に届かないような者はできないようだが、気や魔力の扱いに特化させればLv700程度でも十分に効果が見込める。
その場合は周囲に魔物がいない状態でなければならないが、私の迷宮ではなにも無い所から魔物が産み出されるわけではないのでできなくはないだろう。
……それを知っていればの話だが。
《じゃあ無理だと思うヨー?》
おや、復活したか。お帰りナイア。
それと、別に知らなくとも問題ない。神官が居ればできることだし、戦士ならば気を込めた脚で大地に染みた拠点作成の怨念魔法陣を踏み砕けばいいだけだからな。運がよければ偶然で踏み砕くこともできる。
一つの拠点にいくつもいくつも魔法陣があることもある……と言うか、基本的にいくつも重ねて使うものだから大体の場合はそこらじゅうに散在している。一つ作るのにかなりの魔力を使うためあまり多くはないが、それでもかなりの数を用意することができるだろう。
ちなみに魔法使いの場合はもう少し手段は多く、ディスペルで魔法を消すか光属性で中和するか闇以外の魔法を打ち込んで吹き飛ばすか闇の魔法で飲み込むことで無効化できる。難易度が一番低いのが光で、高いのが闇。他の四つはどっこいどっこいという程度だ。
流れ弾やら何やらで陣を踏み潰す度に若干なりとも魔物が弱体化していることに気付けば、あとはすぐに必死になって研究されるだろうさ。
なお、リッチの魔法陣一つにつき有効効果範囲はおよそ50m。いくつも重ね掛けすれば密度が上がるのでもう少し効果範囲が広がるが、上空まで貫く円柱型ではなく魔法陣を中心とした球形の場を作り出す効果なので、相性的には空を飛ぶモノ相手にはあまり強くない。有効な攻撃方法が魔法しか無いのが原因だ。
陳列棚の方ならゴーレムを改造してバリスタやら大砲やらをつけてやれば解決するが、蟲とアンデッドが主体の墳墓の方ではなぁ……。
まあ、少しくらい欠点がなければクリアできないだろうし、別に構わないだろう。
性能が鬼畜な大迷宮