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異世界編 5-19

 

フルカネルリだ。英雄達についてはほぼ私の予想通りの結果となった。

予想通りに産まれ、予想通りに育ち、予想通りに強くなり、予想通りに英雄に奉り上げられ、予想通りに戦争をして、予想通りに現れたスライム迷宮を攻略し、予想通りに力を合わせて『死せる勇者の墳墓』と『活ける石兵の陳列棚』を攻略し、そして予想通りにその力を恐れた他の人間に殺された。

わざわざ毒に対する耐性だけは普通の人間と変わらないようにしておいたとは言え、本当に英雄を殺してしまうとは……実に馬鹿だな。


だが、実のところ英雄としての実験体は死んだが、ごく一部に上手いこと逃げ切って見せた英雄がいる。

一時的に自らを仮死状態にできたとある盗賊の経験を受け継いだ英雄と、死者を操る死霊術を特異としたとある黒魔術師の経験を受け継いだ英雄。片方は迷宮を攻略する途中で死んで見せたことによって堂々と表舞台から姿を消し、片方は自分そっくりの死体を使って自分が死んだと見せかけた。


この二人は方や人族最強、剣と槍と斧と盾の四つの勇者の力を受け継ぐ男と、方や魔族最恐、魔法と信仰と剣と盾の四つの勇者の力を受け継ぐ女。どちらか片方が本気を出せば、私の迷宮外ではと言う条件付きだが世界全てを相手取っても勝利を掴む可能性があると言うバランスブレイカーだった。

また同時に、この二人は何度も互いの剣を交えた宿敵であり、好敵手であり、そして互いに互いを求め合う無自覚な恋愛初心者でもあった。


初めて剣を交えたのは戦争の時。人族と魔族のぶつかり合うその場所で、二人は全力でぶつかり合った。

そしてその結果は……私の迷宮の出現によって決着つかずで終わった。

それから今までずっと力を合わせて戦い続け、よくあるラブコメ的な付き合いや吊り橋効果や何やらかにやらで互いに惹かれ合い、そして最終的にゴールイン……と言ったところだ。


互いに自分とまともに戦える相手がおらず、隣にも前にも長く居ることができる相手が互いしかいなかったから近しくなった互いにそういった感情を持つようになったのだろうが……まあ、一応祝福しておこう。

誰にも正体を明かせない、まるで隠れ住むかのように深い森の奥で小さな小屋を建て、そこで普通の夫婦のように暮らしている二人に、異世界の創造神(中級)の祝福を。

創造神の予想を外して見せた褒賞……謂わば御褒美のようなものだ。受け取る側に拒否権はないから諦めて受け取るがいい。


この褒賞でこの二人のうち人間の男の方の寿命は魔族の女の方と並ぶ。女の方は二人ともに老化しにくくなり、寿命で死ぬその時までボケや健呆等から守られる。

代わりに多少子供が出来にくくなるが、その辺りはまあ仕方がないと思ってくれ。長命種と言うのは基本的に少産少死だからな。元が人間と言う常時発情期とも言える生物だったとしても、かなり無理矢理長命種に変えることによって随分と子供を作る機能が低下する。

だが、そうして産まれた子供は私の……異界の創造神の祝福を受けるので老化が遅くなり、成長の上限が人間離れした値になり、さらに確率で両親の剣、槍、斧、盾、魔法、信仰の六つの勇者の力を受け継ぐこともある。特に剣と盾は両親ともが持っているのでまず間違いなく受け継ぐようになるだろう。


……魂に刻み込んだ改造版勇者システムが自らを一部複製して相手のものと混ぜることによって子供に受け継がれるのか、それとも両親のものがそのまま移るのか、あるいは完全に新しく作ってそこに記憶の一部と力を複写するのか……さて、どうなるのか楽しみだ。これは目が離せんな。


《楽しそうだネー》


うむ、楽しいし嬉しいとも。なにしろ私の予想外から始まる創造物の一生だ。殆どの物がある程度私の予想通りに動いている中で、私の予想を覆して見せたのだから、私の興味が注がれるのは仕方の無いことだろう。

私がこの実験対象に抱いている想い……これは恐らく、ナイアが初めて私を見付けた時に私に抱いた想いと似ているのだろうな。ナイアの場合は私と比べて規模が大きいからもう少し強かったかもしれないが、質としては同じようなもののはず。


……だとすると、ナイアが私に優しくするのもわかる気がするな。私もなんとなくあの二体に多少の便宜を図りたくなってしまうからな。


《…………フルカネルリー、ちょっといイー?》


ん? どうした、ナイア。何やら纏う空気が少しおどろおどろしいぞ?


《とりあえずボクが言いたいことはネー……ボクだって嫉妬くらいするってことだヨー」


突然、直接頭に語りかけられるような普段のナイアの声が実際に肉声として私に届くようになり、私の身体が後ろに振り向かされた。

そこには少し憮然とした表情のナイアが私のことを不機嫌そうに……それこそ半ば睨み付けるかのような目で見詰めていたが、その目の奥にはまるで子供の独占欲のような物が爛々と輝いているのが見てとれた。


……正直なところ、かなり意外だった。ナイアは嫉妬とは切り離されていると思っていたし、したとしても同格の神威───クトゥグアやハスターなどにだと思っていた。

だが実際には、こうして私の研究対象に嫉妬して少し期限を損ねる。私が手ずから作り、私が育て上げ、そして今まさに実験のために使い潰そうとしている実験体にすら……。


「また、ボク以外の物の事を考えたね?」

「ああ、考えたな。私が実験の事を考えているのはいつものことだ」


ナイアの口調が変わった。普段伸ばしている語尾が消え、いつもよりも声が少しばかり低い。

ナイアに掴まれている右の手首が少し痛いが、この程度なら我慢することができるし振り払おうとも思わない。

私の腕が握り潰されていないと言うだけでナイアがまだ理性を保っていることがわかるし、元々この身はナイアによって貰ったものだ。今この場でナイアの手で殺されるのは嫌だし、残念だとは思うが……まあ、ナイアならば構わんな。

これがクトゥグア達だったら敵わないことを承知で全力で抗うだろうが、相手がナイアならば…………納得できるかどうかはともかく、私は受け入れる。


……まあ、殺されることは無いと思うがな。






  ナイアの嫉妬スイッチ発掘。



諸事情によりまた更新止まるかも……です。サーセいやほんとごめんなさい。


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