異世界編 5-16
フルカネルリだ。迷宮全体をいくつものブロックに分けて、内部にいるモンスターや侵入者の数や破損度などの内部の状態に合わせて定期的に内部構造を組み替えるように設定した。破損度の高いものほど深い場所に入れて修復に力を入れ、侵入者の多い場所ほど表層に近くなるように。
そのため攻略は常にタイムアタックが義務付けられるが、その代わりに帰還したいなら時間まで見つからないようにその場で大人しくしていれば簡単に入口の近くに戻れるようにもなっている。これで迷宮内での餓死率はそこまで高くはならないだろう。
餓死は最も怨念と瘴気を生む死に方だ。特定の相手への怨念に満ちたまま殺した場合に比べれば多少劣るが、かかる手間と時間を考えた場合、そしてその特定の相手以外に怨念を向けさせる手間を考えた場合、コストパフォーマンス的には圧倒的に勝る。
だが、怨念や瘴気は負の魔力の源となりやすい。ゴーレムに必要なものは負の魔力ではなく純粋な魔力であり、何かに片寄った魔力はむしろ害になる。だからこうして餓死はしにくく撤退はしやすい迷宮を作ったわけだ。
そしてここの罠で死んだ冒険者などは濃密な魔力のお陰ですぐさまアンデッドとなって負の魔力の源になる瘴気と怨念をまとめたリッチとなって『死せる勇者の墳墓』へと自主的に転移していく。
こうして『活ける石兵の陳列棚』の不必要なものはなくなり、『死せる勇者の墳墓』とのある意味共生関係は成り立っているわけだな。
《『陳列棚』に侵入者がなかった場合はどうなのサー?》
その場合は互いに独立して成長していくだけだ。この世界にはレベル5000程度ならそれなりに人数が居るようだし、そのようなことにはならないだろうがな。
……ああ、そうだ。もしも英雄達を旗頭に争おうとした場合に間に出す迷宮も考えておかなければ。できるだけ兵士系でタフなのがいいので、スライムやクレイドール等の魔法を使わず対物理に優れ、ついでに再生能力もあるものを用意しておくとしようか。
無論その時はギリギリで他の兵士にも対応できる程度の強さに設定し、英雄達がその場を任せて迷宮を攻略しきれるようなものにしておかなければ。
とりあえず主眼は『しぶとさ』に置き、兵士なら相手はできても殺し切れない程度に。魔法使いなら相性で押しきれないことはないが、数の差で決定力に欠けるように。攻撃能力は乏しいが継戦能力は凄まじく、ついでに耐性を得る力も強く。長引けば長引くほど厄介になるその相手は、英雄達が迷宮の奥でスライムを無限に産み出し続けるクイーンスライムを倒すことで一時的に終端を見せる。
そしてその突発的な迷宮での戦闘の中で、英雄達はボスの部屋の近くにあった小部屋で迷宮の事を知る。世界を守るために、迷宮を攻略する……少なくとも内部の魔物を間引かなければならない事を理解して、そしてある程度の均衡状態に。
……と、ここまで上手く行ってくれれば御の字だな。力と速度と不意打ちで押し切る作戦ではあるが、私はあくまで本領は研究者だ。隠謀を練るのは得意ではない。そう言うのならばナイアの方が得意なはずだ。
『……うふふ……♪ ……そうよねぇ……そのはずよねぇ……ナイアルラトホテプだものぉ……』
《……なんでアザギはボクの事を知ってるのサー?》
『……うふふふ……♪ クトゥルー神話ではぁ……有名な話よぉ……?』
《なんでクトゥルー神話を知ってるノー?》
まあまあ、アザギは私の世界とは異なる世界から流れてきているのだから、私の世界からすれば異常なことを知っていてもおかしくはないだろう。あまり細かいことを気にするな。クトゥグアになるぞ?
《ならないヨー!? なったとしてもクトゥグアと言う名のナイアルラトホテプだヨー!?》
『……それってぇ……ただのナイアルラトホテプよねぇ……? くすくすくす……♪』
《ボクのことだからネー。名前はただの記号だけドー、それでもボクと言う形を表す記号って言うのはボクだけのものだシー》
そうだな。名前は大切にしなければな。
だが、私のネーミングセンスは最悪だ。色々なものから引用したり、明らかに用途の想像できる名前にしなければまともに呼ぼうと思えない名前になってしまう。
だから私の迷宮は名前から内容が想像できたり、あるいは私にとってのその迷宮の扱いそのものが名前としてつけられているわけだ。
……さて、ナイアの名前はナイアルラトホテプ以外には無いと確認したところで、こいつの名前を考えなければな。
こいつと言うのはレベル5800。形状自在にして硬軟自在、液体固体すら自在に操る特殊金属製の巨大なゴーレムのことだ。
最大まで硬化した時の硬度は凡そヒヒイロカネ程度。液体化した時にはまるで水銀のように柔軟に流動して衝撃から内部の核を守り、、時には相手の技や刃に負けて切断された直後にくっついて直すと言う役割も持っている。
これにそのまま名前をつけるとメタルゴーレムなのだが、それをナイアに伝えてみたところそれは限りなく詐欺に近い名前だと言われてしまったので別のものにすることに。
……だが、いい名前が浮かばない。いつも通りの狂ったネーミングセンスから来る名前はいくらでも出てくるのだが、しっかりした名前らしい名前は皆無。良いところが『ソリキッドゴーレム』なのだが、個体と液体であると同時に金属であることも全面に押し出したい。そうでなければ攻略が中々難しいだろう。
ちなみに簡単な攻略方法は電撃で強制全体攻撃をして核も焼き払うか、炎で熱を与えて内側の核を崩壊させること。核がどこにあっても関係無しに壊せる技があれば攻略自体は簡単だ。
……さて、どんな名前にするかな。
迷宮作りよりボスの名前に悩む。