異世界編 5-13
フルカネルリだ。これから私の迷宮の売り込みを始めようと思う。
今までと違うのは、間接的な売り込みではなくもっと直接的でまっすぐに売り込むと言う所だろう。
《つまリー、直接王様の所に話を持っていくってことでいいのかナー?》
間違ってはいない。ただ、その話を持って行くのは私ではないがな。
当然ながらナイアやアザギに持って行かせるつもりはないし、私に繋がりそうな情報をくれてやるつもりもない。
……まあ、簡単に言えば英雄を作ってその英雄に伝えさせる。この近くにあるのは魔族の国だから、作った実験台の中にある魔族の美丈夫かその子孫が良いだろう。
その体には私との繋がりも残っているから死にそうになったらいくらでも強化してやることもできるし、これからやることを考えれば常に最前線に立って守るように戦うかなり強い美丈夫と言うのは英雄視されるには十分だろう。
当然、他の者に比べて遥かに強くなければすぐに英雄とは言われないだろうが、その辺りは多少の強化でなんとかなる。これでも私はハヴィラックとプロトを作ってあそこまで強化して見せたのだ。あまり私の趣味ではないが、産まれる前に知識やら戦闘経験やらちょうどいい記憶やらを植え付けて、ついでに今も私の人前には出せない研究所で働き続けている私のクローンの一人を多少強化して一緒に送り出してやればいいだろう。少なくとも、私の思い通りには動いてくれる筈だ。
《……それである程度の名声を得たその子を使って迷宮のことを話させるノー?》
そうなるな。前にも言ったが、同時に『魔物をある程度倒さなければ迷宮の外に魔物が溢れて暴れだすだろう』と言うことも伝えておく。その話を王やその近くにいる者に話させたら、私の迷宮産の魔物を一度それなりの量放出する。
一応再度確かめてはみたが、やはり私の迷宮の魔物はレベルに応じて上昇するステータスが外の魔物に比べて破格らしくてな。ステータスだけでも外の魔物が追い付くだけに約20倍は必要らしい。
そして私の迷宮の一階層に棲む魔物の平均レベルはおよそ270。周囲の森の魔物のレベルは随分上がって5000強。迷宮20倍則を適用すれば270×20で5400でほぼ同等だが、深い階層に行けば行くほど魔物はその強さと厄介さを増していく。それこそ、英雄でも手に負えぬほどに。
だが、それを解決するために英雄には特殊な能力を組み込んでおく。それは要するにある種のドーピングのようなものだが、ある意味ではすさまじく効果的だろう。
簡単に言ってしまえば、英雄とそのパーティのステータスの伸びが迷宮の魔物のそれと匹敵させる。ただし、レベルを一つ上げるのに通常のおよそ三倍の経験値が必要となるし、迷宮外ではレベル差によっていくらでも増える経験値が最大でも倍にしかならないと言うデメリットもつけさせてもらうが……まあ、それでも十分に破格だろうな。易々と人外の領域に片足を突っ込めるだろうよ。
《すごいサービスだネー? これならもしかしたら人間がこの世界の創造神に匹敵する可能性が出てくるヨー》
いや、それは無い。人間の寿命から考えれば、どう頑張ってもそこに届く前に寿命で死ぬ。なんのための経験値制限だと思っている。
確かに迷宮に入る人間は色々あって老いにくくなるし、殺されない限りは寿命も延びる。だが、その延びた寿命と強靭なステータスをしてもそこまで届かせるのは恐らく不可能だ。
《…………英雄君は人間じゃなくて魔族なんだけドー?》
この世界のではなく、私が作った……な。世界外の人間が神の力を越えていたとしても、それをとやかく言ってくることは無いさ。私のようにな。
さて、まずは準備からだ。適当にレベルを上げさせた魔物を数多く揃えておかなければ。一階層の魔物は外の魔物とあまり変わりがないからそのまま何千体かクローンを作って出してやればそれなりに被害を出して、国の方も腰をあげるだろうさ。
……入り口をいくつか用意してやるのも面白いな。人間の国の方にも同じようなものを作ってやるか。
流石にレベルは多少下げるが、魔族の国の出来事とは多少時期をずらして突然に広野にでも出入り口を繋げてやるとするか。空間を捻れば簡単なことだ。
その際、時間をずらしすぎるとどちらの国が早くとも英雄を旗頭に戦争になりかねないので注意しなければならないが、その辺りは私の腕次第。なんとか上手いことやって見せるとしよう。
……もし戦争になったとしても、決戦直前にその場に迷宮を繋げて魔物を溢れさせてやる。嫌でも協力せざるを得ない場面を作っておいてやるから、せいぜい表面だけでも仲良くやってくれ。
ついでに英雄同士が争っても絶対に決着がつかないようにもしてやるし、お互いにどれだけ嫌いあっても好きあっても長くは離れられないようにしておこう。呪いのようなもの……と言うか呪いそのものだが、気にするな。
さて、それでは始めるとしよう。英雄の基礎は……ああ、ちょうど少し前にわざわざ合計数万に届く存在を使って作った英雄の力の元があることだし、それを使えばいいだろう。
これなら自動でついている転生機能とある程度の感情操作機能、運命操作機能があるから一から作り出すよりもよほど早く出来るし、これまでに溜め込んだ英雄達の能力値も自動で加算されるから私が後から何かを追加する必要がほぼ無くなる。
問題は同時に経験の方も追加されるから恐らく子供の意思はその経験に飲み込まれて消えてしまう事だが、その本人が消えるわけではないから別に変わらないだろう。
それに、変わったとしても私の実験体の一つから私の実験体の特別な一つへと変わるだけだ。本人にとってはどうかは知らないが、少なくとも私にとっては実に喜ばしいことだ。
《そうだネー。それじゃあやっちゃいなヨー》
ああ。そうしよう。
『……ふふふ……♪ ……頑張ってねぇ……?』
フルカネルリ、少し方針転換。