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異世界編 5-11

 

フルカネルリだ。新しい研究を思いついたのは良かったのだが、残念ながら実行はかなり未来のことになるだろうという結論に達した。仕方の無いことだというのは分かっているのだが、なんとももどかしい。

例えこうして一つの研究が滞っていたとしても、他の研究がある程度成果を上げてさえいてくれればもう少し余裕が持てるのだが……まあ、仕方あるまい。

だが、正直に言って私はよく自分の性質がおかしいという話をしてはいたが、一般的な人間と比べてどこがどうおかしいのかということはあまり調べてきてはいなかったような気がする。

何しろ人間の数は膨大だ。その中から普通がどんな物かを選び取るには、私はあの世界で生きれていないし、生きることもできない。


しかし、今回は違う。なぜならば、私はこの世界においては不老であり、時間などは必要なだけいくらでも使うことができる。故に私は効率的ではないが最も信頼できる手段を取った。それがこうして直接対象の行動を記録してそれを解析する方法だ。

……とは言うものの、当然のことながら時代によって『普通』というものは移り変わっていくものだ。時代に置いていかれないように全ての人間の常識と思考を解析し、そしてそれを反映させた人間とまったく同じ人工生命体を作るのは骨ではあるが、これも研究に必要なことだと思えば楽なものだ。むしろ心が踊る。

今までに誰も作ったことのない、ありとあらゆる方面から見て文句無しに人間だと言い切れる人間を作る。実に楽しみだ。


《あレー? プロトは人間じゃないのかナー?》


少なくとも私はプロトを真っ当な人間だと思ったことは一度もない。可愛い私の作品であり、そして実の子のように思ってはいても、プロトは人間ではないことは私が一番よく知っている。

それとついでに一つ言わせてもらうと、プロトは既に精霊に変質しているからどう頑張っても人間ではない。人間である必要もないからそのままにしてあるが、わざわざ人間に戻さねばならない理由があれば体だけでいいのならいつでも戻してやるさ。


……さて、それはどうでもいいとして、情報収集が終わるまで短くてもあと百年かそこらはかかるな。その間私は割と暇なわけだが、とりあえず素体だけでも作り上げておくとしようか。

最低限生きていける程度の能力は付けてやるが、この世界にはわたしが与える予定の能力よりもよほど強力なものがゴロゴロしている。努力しなければ死ぬだろうし、努力しても真の天才といわれる類の化物連中どころか十把一挙げの天才にも届くかどうかわからない程度のそれでは何度も挫折を味わうことになるだろう。そしてそれに従ってどんどんと歪んでいき、最後にはその感情ごと私に食い尽くされて世界から消える。

ハッピーエンドはバリエーションが少ないが、バッドエンドの多種多様さは実に素晴らしい。かつてバッドエンドを書き続けた者は、あまりの種類の豊富さにいつしかバッドエンドしか書けなくなったという話を聞くことすらある。

そうだな、暇な時間は私も研究以外の趣味に明け暮れるとしようか。幸いにも道具は揃っているし、時間もある。


《……イヤイヤイヤイヤちょっと待っテー?》


どうした? まるで天照が男に振られて傷心だからと引きこもるのを偶然にも見てしまった須佐男が頑張って引きこもりを外に引っ張り出そうとしている間に完全に放置されてしまった仕事の山を全て片付けながらストレスで胃が痛むのを止められない月詠のことを語っていたとある名も知らぬ男が自分の知っていた基本原理がすべて間違っていたという事実を突きつけられた時のような表情をしているぞ?


《わかりづらいヨー!? なんでわざわざそんな無駄な説明文をつけたのサー!? 内容自体はだいたいあってるけドー!》


あっているならいいだろう? それにナイアなら私がこうして不必要な語句を付け加えて話している理由がただの時間潰しだということに気付くだろうし、私個人としてはこうして意味のない言葉を紡ぐのは嫌いではないのでな。付き合え。


《……付き合うくらいは別に構わないけどサー……フルカネルリに研究以外に趣味があったってことに凄いびっくりしてるんだけドー?》


なぜだ? これでも私はそれなりに多趣味だぞ? 研究が主体にあり、ほかの趣味に時間を裂くよりも研究をしている時間のほうが多いから研究以外に趣味がないように見えるのかもしれないが、実のところそんなことはない。本を読むのも好きだし、太古のロマンに思いを馳せるのも悪くない。博物館などの見学や、実際に自らの足で山や海を探索してみるのも嫌いではない。

見てみろ、実に多趣味だろう?


《…………なんか納得いかないのはなんでなんだろうネー?》

『……瑠璃だものぉ……神から見ても何をしでかしてくるのかわからないような相手なのだしぃ……納得できなくても理解するべきよぉ……?』

《……いヤー、それはそうなんだけどサー……》


何やら色々と酷いことを言われている気がするが、実際に私は普通に多趣味だし、わざわざこうして理解するべきなどと言われなければならない理由がわからないのだが。

と言うか、それはナイアやアザギの勝手な思い込みであって私には何の責任もないはずなのだが……なぜ私はこうして二人に言い訳のようなことをしているのだろうか。


……と、そんなことをしている間に素体が出来上がった。

この世界で最もポピュラーな金の髪と、同じくこの世界で最もよく見ることになるだろう碧い瞳。見た目はそれなりに華奢だが、この世界では見た目と実際の戦闘能力が一致することはとても少ない。どのくらい少ないかというと、私の母のような細腕でワイバーン等の竜種の鱗を素手で引き千切り、引き裂くような人間がいたり、魔法を使って一軍を一分足らずの時間で蹂躙するような人間もいるというあたりから察してくれるとありがたい。


……それでは、時が来るまで本でも読むか。






   フルカネルリ、優雅に読書に勤しむ。



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