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異世界編 5-9

 

フルカネルリだ。私の研究迷宮の存在する森から最も近くにあるのは魔王領の首都、メルゼド。つまり、この迷宮に自然に人間がやって来ることは殆ど期待することができないと言うことがわかった。

今までこの森に誰も来なかったのは、この森の魔物がこの世界でも有数の強さを持つ上に得る物が少ないが故であり、その点から考えてみればこれからも早々この森の中に知的生命体がやって来ることはまずないようだ。


しかし、それは私が何も行動を起こさなかった場合の話であり、私が行動を起こせばいくらでもひっくり返る事実であったりもする。

例えば、迷宮の宝の話を広め、そして私の一人に宝を持たせて魔王の国でその事を吹聴させれば欲深なのは人と変わらない連中はこの迷宮に入りに……。


……来るか? この森を抜けるのはかなり難易度が高いし、地図すら無いような未開の土地だ。まず来れるだけの実力を持った者がいるかどうか……そこからだな。

とりあえず、今必要なものは情報だな。情報と常識を集めるには……やはり、一度世界を旅して回る必要があるか。

靴底に探知の魔法陣を仕込んで世界をまるごとスキャンする……と言うのはかなり昔に思いついたアイデアだは未知を既知とするために異世界くんだりまで足を伸ばしているのだから。世界の知識を我が物とするまで、私は死にたくはない。






スキャン開始。スキャン距離を無限遠に、精度をナノメートル単位に。そして私に必要な常識を学べそうな位置に楔を打ち込み、常時監視状態に。


対象は主に学園と研究所、ある程度人の多い町。専門知識と一般知識を集めて、それを擦り合わせてある程度の常識を作る。

そうしたらようやく行動を開始することができるが、逆に言えばそれが終わるまでは何もできないわけだな。

実力を測るために適当な兵士や騎士にもマークをしておいた方がいいかもしれないが、残念ながらコネ入りや賄賂が横行している可能性が否定できるものではないので保留。実際に強いとわかる者だけをマークしておくことにする。


……基礎能力が低くとも強い者はいるし、逆に基礎能力が高くても弱い者もいるからその辺りは難しいのだがな。

基本的には強い者はレベルが上がり、弱い者はいつまでもそのままであるからレベルの高い者をマークしておけばいいのだが、寄生してレベルだけを上げる者も居るからな。手っ取り早く強くなるにはいいかもしれないが、それは下積みがなければすぐさま地金をさらす鍍金のような強さだ。下積みをした者に比べて遥かに柔く、そして脆い。

周囲にレベル上げをしようとする者しかいなければそれでも勝ち進むことはできるかもしれないが、本の少しの技術だけでひっくりかえるような強さは果たして本当の強さと言えるのだろうか?


《それじゃあフルカネルリが言う『本当の強さ』ってなんなのサー?》


私にとっての強さ? ならば実に簡単だ。

自分の意思を通すことができる。それは即ち『強い』と言うことだと考えている。

その点ではナイアやクトは自分のやりたいことをかなり自由にやっているし、私より遥かに自由度が高いことから考えて、私より『強い』と言うことができるだろうな。

死ぬことができず、退屈を払うことができないと言っても、今はお前達の傍に私と言う玩具があるだろう? それで楽しんでいられるのならば、つまりお前は強いと言うことさ。


《……そっカー。なるほどネー……》


ナイアはふむふむと頷きながら、のんびりと私の事を見詰めてきた。何やら子供が大切な宝物に向けるような愛情がこもっているような気がするが、あまり気にしない事にする。

最近はあまりそういった視線を向けられるのも少なくなってきたが、昔のナイアはよくこのような視線を送ってきていたからな。


《……ねえねえフルカネルリー》


どうした、ナイア。


《…………抱いていい? 本気で》


………………。

どうやらナイアの何かが臨界点を突破してしまったらしい。いつもは伸ばしている語尾も鳴りを潜めているし、かなり本気で言ってきているのだろう。

私個人としてはナイアには数えきれないほどの恩を感じてもいるわけだし、それを抜きにしてもナイア自身には好意を抱いてもいる。

だが、私が女であると言う自覚はあるとはいえ、だからと言って男であったという記憶が消えるわけでもないし、さらに言えば男であった頃の価値観が消えることも恐らく無い。三つ子の魂百までという諺があるが、三つ子どころか老いて死ぬまでずっと培い続けた価値観だ。そう変わることなどあるはずもない。


……その事を加味して考えた結果。まあ、恐らく私が体を任せてもいいと思える男はナイア以外には現れないだろうという結論に落ち着いた。

クローンの記憶を持っているとは言え、私自信のこの体はいまだに清いまま。できることならばいつか本体のまま心を通わせた相手としてみたいとは思っていたし、ちょうどいいのだろうな。

心が通じているか否かで感覚が凄まじく変わるそうだし、その辺りも含めて……な?






 意外とロマンチストなフルカネルリ



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