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フルカネルリだ。異世界に出掛けるのならばそれなりに準備をしておく必要があるので、とりあえず武器を新調しておく事にした。
それと、次回の世界ではできるだけ人気の無い職業を選んでみようと思っているのだが……。
《それなら錬金術師をおすすめするヨー》
私の前世の職業か。人気の無い理由はなんだ?
《純粋に強くないからだネー。完全に裏方デー、研究専門の職業だシー、レベルは上がりにくいシー、ステータスは低い上にスキルが無くて完全に手探り状態から進めていかなくちゃいけない上にそのための本や実験器具はかなり高価デー、さらにプレイヤースキルに依存するから出来上がった物の性能は決して良くはないのサー。魔法は使えるけど詠唱は長いのが多いし噛んだら自爆だシー……やる奴いないヨー》
そうか。ならば私は錬金術師となろう。私ならどの欠点も障害にはならないからな。
長くても言いにくくても言い切る自信はあるし、ステータスの低さは私に関係ない。実験内容がプレイヤースキルに依存すると言うのもまた遣り甲斐がある。
……だが、そうだとするとこのゲームそのものがあまり人気は出なさそうだが……その辺りはどうだ?
《そんなこと無いヨー。フルカネルリが作ったみたいにVRゲームはそれ一つだけだからネー。超人気ゲームだヨー。完全レベル制とプレイヤースキル依存って言うのは賛否両論あるけどネー》
だろうな。
まあ、私は私で勝手に楽しませてもらうさ。ゲーム世界と言っても、その世界とほぼ同じ異世界なのだろう?
《勿論だヨー。そうじゃなかったらフルカネルリが中からプログラムを弄って好きなようにできちゃってつまんないでショー?》
例えゲームの中だったとしてもそんなことはやる気はなかったが、確かにつまらんな。
特に、何度話しかけても同じことしか答えないキャラクター等が居たとしたら興醒めだ。興醒め過ぎて、本当にナイアの言った通りにしてしまう可能性もあった。
私は反則で全てを知ることは好きではない。カンニングをして知るのは別に構わんが、それもバレないように努力しての成功だったなら、の話だ。
……まあ、私も初めは他者のやることを見て覚えたのだからな。見学という形でだが、それだけでも中々に学ぶことは多かった。
そのうち見学から参加するようになり、独立して研究所を持ち、そして最後は弟子や孫に看取られて……。
……感傷だな。下らん。
さて、異世界での行動の指針も決まったことだし、さっさと異世界旅行にいく準備を終わらせてしまうか。
まずは服装。ナイアがくれた知り合いの蜘蛛の邪神の糸で作られているらしい黒のスーツ(私の成長に合わせて形を変える上に、汚れや傷も放っておけば直ってしまうという便利なものだ。当然、男物)の上に、科学者の正装とも言える白衣を着る。
そのポケットの中には異空間の倉庫が広がっているが、色々とセキュリティをかけて私以外の存在には取り出せないようになっている。
当然の話だが、ナイアやクト達のような存在自体が反則とも言える者達に効果があるとは思えない。……それでも、無いよりはましだろう。
靴には術式を刻み込んであり、移動の度に靴底から楔の術式が地面に打ち込まれて、楔の術式を中心として半径20キロメートルが常時監視できるようにしてある。
手袋には魔術を分解し、魔力に還元して吸収する術が刻まれている。
これ自体も中々の防具であり、まあ早々破れるということは無いだろう。
……相手がナイア達のような理不尽でなければの話だが。
武器は錬金術師の常として分厚い本。魔導書であり魔力炉であり、そして鈍器でもある。
鈍器としての性能はけして良くはないが、一応折れぬ曲がらぬ切れぬ破れぬように防御の術式も組み込んである。あとは私の力次第と言うことだ。
盗まれた場合は爆発するようになっていて、私には誰が爆発させたのかがわかるようにしてある。楔の術式を裏表紙に刻んであるだけだがな。
……使うことなど無い方がいいのだが、確実に使うことになるのだろうな。
……やれやれ。
《そうやって研究のための実験体を集めるくせニー》
その通りだが、なにか悪いのか?
この世は全てが弱肉強食だ……などと言う気はないが、力がかなりの割合を持つのは確かだろう。
……これから行くところは異世界だから、厳密には『この世』では無いがな。
……では、行くとしようか。
《今回ハー、トンネルを抜けてもらうヨー》
『……まるでぇ……雪国ねぇ……?』
そうだな。だが、見えるのは雪国ではない。
折角だし、言っておくか。
トンネルを抜けると、そこは異世界だった。
フルカネルリの異世界編、開始。
※ゲームの仕様は変更されることがあります。と言うかこの辺りまでは一度止まる前に書いたやつなのでかなりブレてしまいましたすみませんごめんなさいわたしがわるうございました。