3-31
フルカネルリだ。春休みには大したイベントが無く、ただ休むだけということも多い。
私は二年から三年生になるにあたって色々と宿題を出されたのだが、それらは全て初日に終わらせて図書館で静かに本を読んでいる。
この図書館にはかなり秘密や隠された事柄などがあるようだが、私が気にしなければ問題ないことだろう。
でなければ意外と律儀な邪神達がこの図書館の存在を許しているとは到底思えないし、そもそもこの図書館の実質的な支配者も邪神の一柱だ。それも常識的な方の。
「あいつは常識的って言えるほど常識は無いヨー」
「流石は死者を自分のために無理矢理転生させた邪神の言うことは違うな」
「それの何が悪いノー?」
「お前の性格だな」
「否定しないヨー」
『……できないものねぇ……?』
最悪と言うほどではないし、享楽的ではあるが責任感はあるが……やはりあまり良いとは言えないからな。
ただし、自分の気にいったものに対してだけという注釈はつくが、かなり好意的で面倒見も良くなることもある。
主にクトゥグア達同期の邪神や、この学校の生徒。そして私等にその優しさは発揮されることが多い。
その代わりに興味がないものに対しては路傍の石よりも自然に無視するような奴だが………まあ、良くもなく悪くもなくと言うことにしておくとしようか。
私はぱたりと本を閉じ、次に読む本を探して図書館を歩き回る。とは言え、新刊は既に読み終えてしまったし、禁書の棚もすべて読み終わっている。こうなっては次読む本は見つからない可能性が高い。
だが、禁書の棚に新しい本が追加されていると言う可能性も皆無ではないので一応見に行ってみるとしよう。
無かったら無かったで仕方がない。その時はまた実験だ。ネタはいくらでもあるからな。
とりあえず、説明書で書かれているのに馬鹿なことをして半死半生になった者とその母親のクレームを忘れてのんびりさせてもらおうか。
私はしっかりと説明書で勧告はしていたからな。やらないでくださいとも書いた。どうなるかも、可能性として一応書いた。
故に私は悪くない。自業自得だ馬鹿者め。
……禁書の棚も探してみたが、新しい本は無いようだな。仕方がない、家に戻るとするか。
家に戻ったところで私の気を引くものはあまり無いが、それでも体を完全に休めながら考えに没頭できる場所だ。
思考実験にも当然のように限界があるが、それは研究所に居る私達が埋められる。事実上無いのと同じようなものだ。
まあ、とにかく研究だ。非人道的なものだろうがなんだろうが問題ない。私も私のクローンもそれらの実験を受け入れる方針だからな。問題ない。
それでは、早く帰って揺り椅子でのんびりとしていようか。
ここはフルカネルリの研究所の一室。主に実験室として使われることの多いこの場所では、毎日様々な存在が産まれ、そして死んでいく。
合成獣にさらに機械を合成してみたり、魔術と魔導と魔法を組み合わせて新たな術を作成したり、物理法則縛り、魔法法則縛りでの研究も進んでいる。
この研究所で産み出される物は、生物だけとは限らない。
そんな実験場の中で、また新たな物が産まれようとしていた。
「うむ、失敗だな」
「そうだな。費用対効果が割に合わない。完全に失敗だな」
「まあ、失敗には失敗なりの成果がある。失敗を積み上げて次へ進むのが我々科学者の在り方だろう」
「そうだな」
同じ顔をした少女達が、少女達曰くの‘失敗作’を眺めながら言う。
それには頭があり、腕があり、足があり、胴体があり、それでいてけして人間では無かった。
「そうか。それでは私は裏実験場に行ってくるとしよう」
「うむ、済まないな」
「私の事は気にするな。失敗を糧にして上を目指すならば、私は喜んでこの身を捧げよう」
ぐじゅり、と人のようだった形が崩れ、不定形となった体を引きずりながらごそごそと裏異界研究所へと進んでいく少女の一人だったもの。
誰もがその光景になにも言わず、ただ自らの研究に没頭している姿は………どこからどう見ても狂っているとしか思えないものだった。
それでも少女達は何事もなかったかのように動き続ける。新しい少女の一人が、空いたばかりの手術台に横になる。
「それでは、次の実験だ。まず死ぬが、いいか?」
手術台の横に立つ一人の少女がそう言い、手術台の上に横になった少女は笑顔で答えた。
「ああ、やってくれ」
すぐさま動き始める、同じ顔をした少女達。悲鳴は無く、ただ安らかに死に、そして人外として蘇る。
狂いながらも正しく回る、この世界はフルカネルリの支配下にある。
そして今も、研究所では新たな何かが生まれ続けている。
所員が全員マッドな研究所。