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フルカネルリだ。文化祭ではいつものように生徒による作品展示を行ったわけだが、今年は昔に作ったオルゴールの改造版、オルゴールなのにピアノの音がするようにしたそれを作ってみた。
曲は昔に作ったオルゴールと同じ曲だが、楽器が変わると雰囲気も随分と変わるものだな。
「ンー♪ んーンー♪」
「んー♪」
……おや、邪神達には中々好評のようだな。前に作ったオルゴールと一緒に流しているお陰か、随分よく響いているな。
……そう言えば、この魔力の性質についての研究は大雑把なところで止まっていたな。
魔力は気体のような粒子でありながら、波でもある。まるで光と同じだな。
圧縮して固定すれば粒子同士が結合して個体になるし、結合を解いて流せば液体と同じように波の性質を持つ。
このような単純な事までしかわかっていないので、是非ともさらに奥深くまで知識を深めていきたい。
私は強欲極まりない科学者だからな。求められる限り求め続けるさ。その先に何があろうと、後悔しようと、なんだろうと知ってやる。
《いい覚悟だネー!それでこそフルカネルリだヨー》
『……元々ぉ……瑠璃は瑠璃だけどねぇ……?』
そうだな。私は私だ。それ以外の何者でもない。
それがわかっていれば私は私の力の限り、どこまでだって進んでいける。
そのために(形は無理矢理だが)転生したのだから。
さて、そう言うわけで音楽祭だ。今回は多少本気でやってみようと思う。
音を術式の最小単位として曲を奏で、魔法を発動させる。魔力の操作は十分すぎるほどにできているし、理論的に可能か不可能かで言えば実用レベルで可能だ。
曲を繋げることで連続して魔法を発動させることもできるだろうし、曲の中に単発の術式を混ぜ込めば……いやいや、それ以前にまずはどの音にどんな意味を込められるのか、あるいはどの音または音の繋がりにどんな意味が込められているのか、その事を確認することが先だな。
すべての基礎を学び終えてからでなければ、最奥に辿り着く等ということはまずできない。最奥を目指すのならば、まずは基礎の基礎からやっていかねばならない。
……ただ、時々天才と言うものが居る。そいつはひたすら理論を組み上げてようやく辿り着いた場所まで感覚任せに一跳びで到達し、そしてさらに上に進んでくる。
そういう姿を見ていると、私は…………それを利用し尽くして私の現状より上を知ってみたいという思いを抑えきれなくなりそうだ……!
《嫉妬やら羨望やらとは無縁のフルカネルリらしい外道極まりない回答が来ター!?》
外道極まりないとは酷いな。真になにかに向けて突き進むものにとっては、それ以外のものを切り捨てることは当然と言ってもいいことだぞ?
その点で言えば私は幸福者だ。こうして他愛もない日常を楽しみながら、同時に陰惨極まる実験を繰り返すことを許されているのだから。
神というのはつくづく不公平な存在なのだな。
《気に入った相手には気に入ったなりの祝福ヲー。気に入らない相手には気に入らないなりの呪詛ヲー!……神の中では割と常識だヨー?》
『……神の中では……ねぇ……?』
呪詛はともかくとして、気に入った相手に庇護を、気に入らない相手に暴力を……ならば、神も人間も同じだな。
違いと言えば、死ぬか死なないかの差だろう。
《神だって死ぬ奴は死ぬサー。死ねることを幸福と思わないやつから死んでいくんだけどネー》
『……死ねるものにとってはぁ……死とは恐怖する対象だものねぇ………くふふふふ……♪』
そのようだな。
そう言えば、私はナイアによってこうして転生しているわけだが、本来ならばどうなっているのだ? 記憶を無くして転生か? それともただただ消滅するのか?
《……世界によって色々と違いはあるけドー……大体は記憶を消されて転生かナー? 消滅するってのはなかなかないヨー?》
そうか。
特殊な場合はあるか?
《うーんトー………みんな混ぜ合わされてちょっとずつ取っていく感じの所もあるかナー? 昔ながらの鰻屋のタレみたいな感じでサー》
……ああ、およそ把握した。分かりやすい説明だったな。
確かそれは……老麺法だったか?
《そうだったと思うヨー? 違ってたらごめんネー》
構わんさ。どうせ名前を知っていたところで技術力は変わら…………。
……ふむ。残ったものをそのままではなく、新しくそこに何かを混ぜて新たな何かを作る……とすると、音響魔術の残響を利用して、弾いた音と組み合わせて短縮魔法などはできたりしないのか?
《新しいネタになっちゃっター!?》
『……発想力がぁ……凄いわよねぇ……?』
何より恐るべきは発想力。