3-25
フルカネルリだ。夏休みが終わり、二学期に入ってすぐのこと。体育祭の準備に勤しんでいた私は、なぜか応援団員ほぼ全員に土下座されている。
白兎には用がないらしいので私だけなのだが、いったい何の話だろうか。
「それで、女子を呼び出して暗がりに連れ込み、大人数で私を囲んでいる諸君の中で、どういう状況から現在の状況に繋がったのかを知っていて尚且つそれを端的に説明できるものに問いたい。……何の用だ? 突然頭を下げられてもわからんぞ?」
……いや、わかろうとすればわかるが、私にはあまりやる気がない。封印をわざわざこんな事のために解く気にはならないし、何より面倒だ。
私がそう言うと、一人の男が進み出て私に頭を下げたまま説明を始めた。
………簡単に言うと、応援団からのスカウトらしい。どうか体育祭の間だけでも応援団に入ってくださいと懇願された。
無論私は断った。私にメリットは無いし、義理も理由もなかったからだ。
制服として黒の改造長ランとさらしを見せられたが、私がそんなことをしたら色々不味かろう。
これでも私は煽動スキルとカリスマスキルを保有している。そんな私が応援などしたら、確実に……
《面白いことになるよネー》
そう、面白いことになる。
だが、その後のことが面倒極まりない。
《あレー? 久し振りにボケてみたら気付かれもせずにスルーされちゃっター》
『……正解だったんだからぁ……仕方ないじゃないのぉ………』
《……そうなんだけどサー………》
やれやれ、面倒なだけの面倒事は嫌いだと言うのに……。
そんなわけで迎えた体育祭だが、応援団はやはりあまり目立ってはいなかった。
応援団が目立つのは学外競技の時だけで十分だと思うのだが、どうやらこうして目立てないと言うのは応援団としては恥であるらしい。
だからといってなぜ私を応援団にスカウトしたのかもわからないし、そんなことを聞かされても応援団に所属する気は欠片も無い。私は帰宅部で満足している。
まあ、応援はするがな。頑張っている者を見るのは嫌いではないし、必死さを見せてくれる者達を嫌いになることはあまり無い。
完全に無いとは言わない。なぜなら、世界を越えて白兎を誘拐したあの世界の人間を好きにはなれないし、好きなろうとも思わないから。嫌いなものは嫌いだし、気に入らない物は気に入らない。
私を利用するのは構わないが、私の気に障る事をした者には容赦はしないようにしている。
……それは、当然と言えば当然なのだがな。人間としても、科学者としても。
唯一違うのは、狂人か聖人のどちらかだろうな。
……おっと、私は狂人だったか。ならば一部の物好きな狂人と言い換えておくべきだな。
全ての狂人を一纏めになどできるわけがない。できたとしても、一般的な感性からは確実に外れるだろうな。
例えば、自分以外の相手の全てが石ころに見えるとか、相手の姿形の区別がつかないと言った狂人と、とある人物を殺すためにあらゆる事をするような狂人は随分違う。この二つの種類の狂人を纏めるには‘狂人’というカテゴリに入れるか、あるいはさらに大きくして‘人類’‘生物’と言ったカテゴリに入れることになるだろう。
しかし、狂人にとっては自らのやる事は大概正しくあり、本人からすれば自分の思い通りにならないことこそが狂っているということになる。
つまり、そういった狂人にとっては、狂人は自分以外の全てであり、自分は間違っていないと認識してしまう。端から見ていれば狂っているのは明らかに向こうであっても、本人にとってはそれでこそ正しいのだから、誰もが納得する狂人を一纏めにする言葉などはまず存在しないわけだ。
……私はいったいどうしてつらつらとこんなことを考え続けているのだろうか? 時間が余っているからか?
暇なら脳内仮想実験や私の研究所からの連絡を纏めることに労力を使えばいいのかもしれないが、これ以上表出させている思考量を少なくすると、色々と行動に問題が出てくるからなぁ……。
やれやれ、暇というものは困ったものだ。必要ないことや面倒なことばかり考えてしまう。
面倒事は好きではないのだがな。思考実験では面倒事が起きてくれても一切構わないのだがな。
単なる暇は嫌いなフルカネルリ。