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フルカネルリだ。つい衝動買いと言うものをしてしまった。今生では初めてのことなのだが、なぜこの壜にこれほど惹かれたのかがわからない。何が私をこれほどまでに駆り立てたのだろうか?
《多分その壜が持ってる妖気のせいじゃないかナー?》
『……研究すればぁ……面白いことになりそうねぇ………うふふふふふ……♪』
確かに面白いな。道具が妖気を持っていると言うのは別段珍しくもないが、なぜ妖気を持つに至ったのか、その妖気の元々の主は誰かということには興味がある。
妖気を持つ器物とは、基本的に長い間妖気を浴びていた物に妖気が定着した物だ。
その妖気を鑑定すればなんの妖怪が使っていたのか、あるいは作ったのか。そういったことを理解する一つの助けになる。
知ったところでなんの役に立つのかと言われれば、なんの役にもたたないと答えるしかない代物だが、私にとっては役に立つか否かよりも、私がそれを知ることの方が重要なことだ。
……さて、原因がわかった所で研究だ。代わりの無い大事な大事なサンプルだ。丁重に扱わねばな。
生物も器物も全く同じものは作れないのだし、解析も終わっていないうちに壊す訳にはいかない。
この壜は優しく扱ってやろう。私のクローンをベッドの上で可愛がる時のように。
『……そう言えばぁ……そんなことも、やってたわねぇ……?』
《やってたネー》
まあ、何事も経験だからな。やってみたいと思ったことは実行してみなければ何が起こるか本当の意味で理解することはできない。だからこそ私は多少の危険を冒してまで行動するわけだ。
……科学者の勘は割と当たるのだ。実験で失敗しそうなものは失敗するだろうとすぐわかるしな。
《フルカネルリが特別勘が鋭いだけだと思うけドー?》
もしかしたら、それもあるかもしれんな。
久し振りに氷雨の住む山に行ってみることにした。私の作品の使い心地も聞いておきたいしな。
ザクザクと雪を踏み固め、そこそこに険しい山道を登る。転移してしまえば早いのだが、あそこの周囲は雪のお陰で地形の変動が激しいので下手をすると首から上だけ雪山から出ているという生首状態になってしまう可能性もある。
洞窟内部には氷柱が垂れ下がり、転移した位置にそれが重なると動けなくなってしまうために洞窟内の転移も不可能。
まあ、たまにはこうして登ってみるのもいいだろう。術式と服の材質のお陰で寒くはないしな。
《便利な服だよネー》
こんなこともあろうかと作っておいた術式だからな。寒冷地や寒い日には重宝している。
発明とは必要だから行われるものであり、私は必要になる可能性があるものを作っているわけだ。
まあ、たまに私の趣味で意味もなく物を作ることもあるが、そのことは勘定に入れる必要はない。捨て置いてくれ。
それと、帰りはスキーだ。たまには運動しなければ気分が悪いし、今日は何となくそんな気分だ。
健康の呪いで肉体も精神も健康を保ってはいるが、気分は別だからな。
時間も問題ないし、迷うこともない。どうしても間に合わなくなったならば、すぐに転移してしまえば大丈夫だ。
……む? 着いたか。
氷雨と顔を合わせ、発明品の使い心地を聞くと、もうあれ無しでは夏を過ごすことができないと言われてしまった。どうやら気に入ってくれているようで、なによりだ。
そこでまた新しく術式を組み込み、妖力を冷気に変える効率を良くしてから氷雨に渡す。恐らくだが、これでさらに使い勝手はよくなった筈だ。
私は氷雨に別れを言って、山の頂上付近にある氷雨の洞窟からスキーで滑り降りていくのだった。
……おっと段差。危ない危ない。
久し振りに出会ったあの少女は、何も変わることなく私に接してきた。
あの頃よりもさらに成長したことにより、その美しさもさらに増している。
雪女すらも嫉妬させる、白く美しい肌。夜の黒さを思わせる、漆黒の瞳。流れる水のような美しさを持つ、黒い髪。
この国の人間とは……いや、もはや人間と思うことすらできそうにないその美しさに見惚れるうちに、その少女との話し合いは終わってしまった。
……また、会うことはできるだろうか…………。
いつの間にか落ちていた氷雨の想い。