3-14
フルカネルリだ。ミニスカサンタと言うものを知っているだろうか?
……そう。今私が白兎やクトに着せられそうになっているこれを着た女性サンタクロースのことだ。大抵は若い女がやる。
「えー。いいじゃん。瑠璃なら似合うよ絶対」
「絶対に嫌だ。そんな姿を衆目にさらせるわけが無いだろう。人の目がなくとも着るだけで最悪の気分になるのに、そんなことをやるはずがないだろう」
「えー? フルカネルリちゃんなら似合うよ~」
「似合おうがなんだろうが絶対に嫌だと言っているんだ。そこまで言うのなら、アブホースにでも着せればいいだろう。そのままクトゥグアの寝所にでも放り込んでおけばクリスマスプレゼントの代わりにはなるだろうさ」
「……それいいね。ナイアさん」
「準備できてるヨー。はいアブホースの分ネー」
私から矛先を逸らすために言った言葉が現実になってしまった。クトゥグアよ。お前の見る明日の朝日は黄色いだろう。
まあ、それも一つの幸運税だ。甘んじて受け入れるがいいさ。
まあ、私はそんなお前を見て、横で呵々と大笑させてもらう。
…………そのためにも、今は私を追い詰める白兎をなんとかせねば。
私は実に普通のサンタクロースの格好をしている。あの後、話し合いで適当に言いくるめてやった。小娘一人言いくるめることなど訳無いさ。
「ねえ瑠璃。その服には白いところがみあたらないんだけど、どうしたの?」
「血で染まった」
「………え?」
「安心しろ。ただの冗談だ」
私は白兎をいなしながらクリスマスパーティを楽しんでいる。私に触発されたのか、何故か私以外にも男物の服を着ているものが増えてきているのがわかるが、困らないので別にいい。
ちなみにクトゥグアとアブホースは欠席。ハスターが盗聴してみたところ、クトゥグアの部屋の中で蜜月を過ごしているそうだ。
……そう言えば、普通に飲んでしまっていたが私たちは未成年。飲酒は法律で禁じられて
《クトゥグアやクトちゃん達が作ったこの国でハー、量にもよるけど認められてるんだよネー。邪神族の前なら普通に分解してもらえるシー》
『……飲酒はぁ……十三歳かららしいわよぉ………?』
……そうか。そう言えば、ここは日本ではなかったな。日本では二十歳からだが………と言うか、ずいぶんと差があるな。流石は常識知らずの邪神族だ。
正確には、常識を知っていて無視をしているということだが……まあ、結局非常識という点では変わらない。わざとかそうでないかの差はあるが、些細なことだ。
そう思いながら私は手近にあった酒をグラスに開け、ゆっくりと飲み干す。
私はあまり酒はやらない方なのだが、流石は神造酒と言うべきか、凄まじく美味い。
グラスを揺らしてその酒を眺める。種類としては………これはワインの一種になるらしい。
そのとなりにはブランデーがあり、どれもこれも邪神が暇潰しに作ったものらしく、異様に美味い。
「美味しイー? それならボクも作った甲斐があったってところだヨー」
どうやらこの酒はナイアが作ったものらしい。いつ作ったのかは知らないが、相当昔の事だろう。
「いやいヤー。精々500年くらい前のやつだと思うヨー?」
「普通の人間にとってはそれは十分に長い部類に入るさ」
私自身も、この世界では長生きしても精々百年程度。五百年もの時を越えた酒など飲む機会はあまり無いだろう。
どうせならば、飲めるときに飲んでおこう。
「るーりぃーっ!飲んでるー?」
「ああ。飲んでいるとも。なかなか美味いな」
「お酒って美味しいよねー」
白兎はのんきにそう言っているが、恐らくこの酒の価値などわかっていないなだろうな。
まあ、価値がわかったとしても、飲まれない酒は水にも劣る。それを考えればこうして飲んでしまうのが一番だ。
……私は呪いのお陰で酔うことは無いが、それでも味や香りを楽しむことはできる。
私も白兎のように、楽しめるうちに楽しんでおくか。
そう考えた私は、とりあえずブランデーに手を出すことにした。
確か……手の熱で温めて香りを楽しむ…………だったか? あまりよくわからないのだが……まあ、適当にやっておこう。
国が違えば法も違う地で、フルカネルリは酒を飲む。