3-11
フルカネルリだ。文化祭ではなぜかまた展示品を置いておく事になった。どうやらクトがまた手を回したらしい。
「私だけじゃないよ? お兄ちゃんもアブホースさんもこっそり色々してたみたいだし」
……どうやら、文化祭では私のクラスは常に展覧会で固定されてしまったようだ。
まあ、物作りは嫌いではないから構わないがな。
ちなみに今年作ったのはボトルシップ……のようなものだ。中に入っているものは船ではなく城下町だが、中々上手く作れていると思う。
モデルは世界史の教科書に写真が載っていた後漢末期の都。材料は主に小さく切った割り箸と爪楊枝。城の柱などの丸い部分や、太さが違う柱、まちまちな町の並びなどの再現は苦労したが、一応できた。このまま一つの世界としてやっていくのは……まあ、無理だろうが、大きくすればそのまま住めそうだ。
「…………瑠璃。瑠璃ってさ……色々凄いね」
「ありがとう」
「……細カー……最早気持ち悪いくらい細カー………」
「ありがとう」
……これは誉められているんだよな?
………まあ、そんな感じで文化祭は終了した。今はクトの気分で追加された音楽祭の準備中だ。
「ぶっ飛んだネー?」
「そうだな。……ところで、今日は実体化するのだな?」
「音楽は肌で感じたいんダー」
「そうか」
音楽祭の練習は、大して難しいものでもなかった。
それと言うのも、この世界の普通の人間が練習すればできるようなことは、異世界にいる間で時間が空いた時に暇潰しに学んだからだ。
楽器はその最たる物で、一番初めの異世界で既に学んでしまっている。
一度学んでいるのならば、後は思い出していきながらそれをやればいい。実に簡単な仕事だ。
「やっぱり上手いね」
「そこそこにな」
所詮はそこそこ止まりだ。思い出しながらの演奏ではたまに指が迷うし、そもそも暇潰しとしてやっていただけなので、あまり上手くもない。
つまり、まさにそこそこ止まりと言うわけだ。
今はそれを見越した練習をしているから全盛期より上手くなるだろうが(と言うか、なるまでやる)、その後についてはわからない。
まあ、ある程度は予想できるがそれが当たるかどうかはわからないし、そもそも当たっていようが当たっていなかろうが私のやることは変わらない。
練習して、音楽祭を上手いこと成功させる。
ついでに鈍った演奏の腕も取り戻し、ついさっき思い付いたことの実験をしてみようと思っている。
魔術などの詠唱を、楽器の演奏などで置き換えることはできないか。研究の種は意外なところに転がっているものだ。
そのためにも、最低限狙った音を狙った音量で出せるようにしておかなければ実験どころではない。
昔はそこそこできたので、一応できるようにはなるだろう。
「……瑠璃ってやっぱり万能だよね」
「ある程度限界はあるが、そうだな」
全ての微才でほんの僅かずつでも才があるのだから、間違ってはいないだろう。
ただ、その限界とはいったいどこにあるのかがわからないのだが。
「……わかるか?」
「ンー……ちょっとわかんないかナー」
「そうか。残念なようなほっとしたような……そんな気分だ」
わからなかったせいで残念で、わからなかったおかげで安堵した。
やれやれ。私の心もわからないとは、私もまだまだ若いということか。
音楽祭が始まって、学校に音楽が満ちる。
大講堂で演奏されている曲や、唄われている歌は、どうやってか学校中に響いている。
お母さんが中学生だった頃にも一度、音楽祭があり、その時もおんなじように大講堂から曲が流れてきていたって言ってたけど……その時も、どうやって流れてきてるのかはわからなかったらしい。
パイプで繋がっているんじゃないのか。いやいや放送機材を使って流れてるんだ。それにしてはリアルすぎるから、きっと上手い感じに音が反射されて集まるようにできてるんだ……と、色々な話が出たけれど、最終的には『あの校長先生達がなにかよくわからないことをやったに違いない』という結論に達してお開きになったらしい。
……なんだかすごい納得できる話だなぁ……と思ったのは置いておいて、今は私達の演奏の準備をしないと。
私は緊張する中で、瑠璃と白兎の方を見る。
案の定白兎は瑠璃に撫でられて緊張しすぎてガチガチの状態から抜け出していて、今はもういつも通り……とはいかないものの、かなりリラックスした状態になっていた。
じっ……とそれを見ていると、瑠璃と目が合った。緊張を見抜かれているらしく、ちょいちょいと手招きで呼ばれた。
近付いていくと、瑠璃は白兎と同じように、優しく私の頭を撫でてくれた。
私達の平均身長から頭ひとつ高い瑠璃に撫でられていると、なんだかお母さんに撫でられているような気がしてくる。
「……大丈夫だ、機乃」
「……うん」
…………ああ……落ち着く……………………。
なんだか子供っぽい機乃さん。