3-8
フルカネルリだ。夜になり、クトの主催でとある大会を開くことになった。
その内容とは。
「夏の定番!納涼肝試し大会ーっ!」
……実に楽しそうだな。クトも、アザギも。
……昼にアザギが居なかったのは、この事をクトと話し合っていたからか?
「真っ昼間から色々仕掛けを作ってたんだヨー」
「今の今までか?」
「三分くらいかナー?」
……ふむ。手の込んだ仕掛けがありそうだ。
「もちろん異界に跳ばすとかそんな仕掛けはないから安心して良いヨー。精々幻覚を見るくらいサー」
そうか。私にも効くのか?
「やだナー。フルカネルリに効くような幻覚をこんな子供たちにやったラー、精神がぶっ壊れちゃうヨー?」
私の耐性はいったいどこまで行っているのだ。化物か?
「……あんまり間違ってないかもネー」
ナイアはそう言って笑うが、私としてはあまり嬉しくない。
私ははしゃぎ回っているクトを見て、軽くため息をついた。
「あれ? どうしたの瑠璃。元気ないね?」
「……ああ、まあな。少々疲れることがあったから、できればさっさと終わらせて眠りたいところだったのだが………」
「………あははは、そっかぁ……お化けとか怖くて不安に思ってるのかもとか思ったけど、全然違ったね」
「そうだな。第一私の隣には、大抵亡霊がいるのだから幽霊程度はそこまで怖くない」
「へっ?」
……前に言わなかったか? アザギの名は出していなかったが、私の近くには霊が常駐していると。
「冗談だと思ってたんじゃないノー?」
……ああ、なるほど。その可能性は高そうだ。
だが、残念ながら事実なんだよな。
「昔から、私の周囲は涼しかったろう?」
「……ねえ、冗談だよね? 冗談なんだよね!?」
「はっはっは。安心しろ。九割方は本当だ」
「安心できないよ!? って言うか、残りの一割くらいはなんなの!?」
「残りの一割はマジだ」
「ようするに 全部マジって 事だよね!?」
おお、川柳か。風流だな。
「まあ、気にすることはないさ。アザギはやたらと人を襲うことはしないし、今回の肝試しにお化け役で参加してくれる程度には茶目っ気のある奴だ。悪霊で亡霊だが」
「わー本格的って危なすぎるよねそれ!?」
「大丈夫だ。問題ない」
「なんか問題が起こりそうな返答はやめてよ!?」
大丈夫だと思うんだがなぁ……。
まあ、クト達がしっかり見張っているわけだし、平気だろう。
肝試し大会とは言っても、驚かしに来るのは教師くらいなもの。風を使って呻き声のようなものを響かせたり、炎で人魂のようなものを作るくらいの小さなことしかやってはいない。
まあ、それ以上のことをやったら騒ぎになるだろうからやらないだろうが、邪神達はそんなことは気にしないでやるかもしれないが……結界も張ってあることだし、なんとかなるだろう。
姿は半透明に。接触はこちらからのみ。ついでに隣に温度の無い冷たい炎を浮かべ、やってくる少年少女を待ち受ける。
普段から発している霊気の密度を少し上げたので、夏にも関わらず涼しい思いをすることができるはず。
数分後にやって来た少年二人は、籤で男同士で当たってしまったことがずいぶんと不満らしく、口々に愚痴を漏らしている。
「ったく……何で俺がお前なんかと……」
「仕方無いだろ籤なんだから。俺だって選べるんだったら木乃里さんがよかったよ」
「へー? お前木乃里が好きなんだ~?」
「うるせえな!悪いかよ!?」
「別に~?」
……なんだか、とっても仲がいいわねぇ……。
「お前こそ誰が好きなんだよ!」
「秘密だ!」
「言え!」
「嫌だ!」
なぜか少年達はこんなところで口喧嘩をしている。けれど、急に片方の少年が周囲を見回し始めた。
「……なぁ。なんか寒くないか?」
「お前もか?」
ぞくぞくと腕を震わせ、少年達は少しずつ私に近づいてくる。
その二人の目の前で、わたしは少しずつ体を可視化させていく。
「…………なあ。夢だよな?」
「……きっとそうだ。俺達は寝てるに違いない」
「……現実を認めなさいなぁ……」
するりと近付いて、片方の少年の頬を両手で包み込む。わたしの手は、きっとひんやりしているはずだ。
「……あなたは……食べてもいいのかしらぁ……?」
わたしがそう呟くと、少年達は一目散に逃げていってしまった。
……ああ、楽しい。
悪戯好きな亡霊。