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フルカネルリだ。白兎にはあれを夢で押し通したら、あっさりと信じてしまった。
……そうみえるが、実際はそこまでしっかり信じたわけではないが、私がそう言うのだからと追求をやめたという事情があるようだ。
まあ、信じてもらえるのは嬉しいが………少しばかり、白兎の将来が心配だ。
《過保護だネー?》
五月蝿い、地獄の断頭台で首をはねられて死ね。
《地獄の断頭台って某悪魔将軍の九所封じの最後のあレー!? かなり古いネタが出てきター!?》
『……もちろん……先に八ヵ所はぁ………封じておくのよねぇ………?』
クトやクトゥグアに頼めばなんとかならないか?
《なるだろうけど実行しないでヨー!》
私の気分次第だな。それと頼まれたクトとクトゥグアの意思次第。
恐らくクトは受けないだろうし、クトゥグアは受けたとしてもまたからかわれるだけで終わるだろうから問題ないだろう。
………さあ、ようやく私の日常が再開する。この世界はつまらない異世界よりもよっぽど刺激的だ。
しとしとと雨が降る。紫陽花が数多くの花を咲かせているが、クトゥグアの機嫌は直滑降だ。
確か小学校にも存在するはずだが……恐らく分身でもしているのだろう。
こんな日のクトゥグアの授業はかなり静かだ。誰も態々機嫌の悪いドラゴンにちょっかいをかけようとは思わないだろうし、当然だが。
だが、もはやいつものことなので誰も怯えはしない。小学一年生の頃には怯える者が大半で、二年から三年になっても少しは居たが、それ以降は怯えるのも馬鹿らしくなって怯えなくなる。
そんな中でも出来る限りいつも通りに授業をしようとするクトゥグアを、ナイアはいつも笑顔を浮かべて眺めている。
《……あのキレやすかったクトゥグアがネー……こうしてイライラを自分の中で止めようとするなんてネー………アブホースも苦労したんだろうナー……ってサー》
そう言うことらしい。昔のクトゥグアを知らない私だが、現在以上に怒りっぽいクトゥグアを想像するのは簡単なことだった。
……さて、授業に集中するふりをしようか。頭の中では別のことが大半を占めているが、このくらいの事ならば簡単にわかってしまうからな。
一応、クトゥグアの雑談には耳を傾けているが。
『……たまにぃ……昔のことを話してくれたりもするものねぇ……?』
ああ。それも、歴史の影に隠されたようなことや、明らかに国の弱味になり得ることも普通に話してくれるから………まあ、将来役に立つかもしれん。
《脅迫とかにネー》
脅迫ではない。ただの話し合いだ。
学校が終わった時には見事に空は晴れ上がり、虹が出ていた。
そう言えば最近は虹を見ていなかったということを思い出し、私は空を見上げて笑顔を浮かべた。
「……わぁ……瑠璃のこんな笑い顔なんて久し振りに見た」
「白兎か。ちょうどいい。途中まで一緒に帰らないか?」
右から聞こえた白兎の声に、私は振り向きながら言葉を返す。
白兎は珍しいものを見たという顔をして、それから悪戯っぽい笑顔を浮かべて制服のスカートの裾をちょいと持ち上げて言う。
「それでは、お願いしますわ、ジェントルマン」
「光栄です、プリンセス」
…………うむ。実に似合わない光景だな。唯一の救いは私が男役だと言うところだろうか。
《そんなことないヨー? 確かに普段の二人からするとおかしいかもしれないけドー、似合ってるっテー》
そうか。それは喜んでいいのか悪いのか……。
まあ、一応誉め言葉として受け取っておくとしようか。
私と白兎は手を取り合い、雨上がりの空を見上げながら歩いていく。
今日も私の知るこの世界は平和だ。
ちなみに、この世界と言うのは私のいるこの町のことだ。
この町は我らが邪神達によって結界が張られており、その内側では犯罪は見逃されないし、結界内に入り込んだ人間の体に様々な能力を付加するという効果もある。
まあ、能力付加の方は数年単位でこの町で暮らさなければまず発現しないようだが。
《そりゃそうサー》
《そうだよねぇ?》
《そうだろうなぁ》
《そうでしょうね》
《その通りだとも》
そうだよな。
まあ、私は一向に構わんがな。
「? 瑠璃?」
「……ああ、何でもない」
白兎は、たまに鋭いな。普通なのかもしれないが。
なぜか女の子らしいことを無意識にやってしまったフルカネルリ。