3-5
急に呼び出されて勇者と呼ばれた春原白兎です。いったい私はどうすればいいのかな?
瑠璃には慌てそうになった時にこそ落ち着けと言われてるし、まずは落ち着こう。
……すぅ、と息を吸って、ゆっくり吐く。……よし、多分大丈夫。
「……質問があるんですけど、いいですか?」
「この場は冷えます。まずは移動されてはいかがでしょうか?」
なんだかこの人、妙に焦っているように見える。どうしてかな?
「いえ、この場で答えてください」
「しかし……」
「いいから」
じっ……と見つめると、その人はどうしてか私の後ろに目だけで視線を送った。
それはまるで助けを求める視線で━━━
ガッ、というなにか固いものどうしが激突するような音が響いて、目の前の人が息を飲んだ。
「━━━死ぬか?」
その声に振り向くと、そこにはいつもの見慣れた姿があった。
「……瑠璃?」
「ああ。白兎が誘拐されたと聞いてな。校長達に送ってもらった」
そう言っている瑠璃の手には、日常ではテレビの中以外では見慣れない物が握られていて、それで鎧の人の剣を受け止めていた。
「白兎。目を閉じろ」
瑠璃は私に笑顔でそう言う。私はそれに素直に従って、目を閉じた。
きゅんっ、と一瞬の浮遊感が私を襲い、気が付いた時には私は学校の私の席に座っていた。
……なんだったんだろう?
フルカネルリだ。白兎を送り返した私は、目の前の人間達を眺める。
自作の強化版の銃の先についている銃剣で一人の鎧の男の剣を受け止めている状態だが、この程度は大した負担ではない。
とりあえず、解析してから皆殺しだ。
そう結論を出した私は、この場に居る全ての人間を解析し、記憶を読みとる。国の歴史や世界の情勢には目もくれず、今の状況にだけ焦点を合わせた。
すると、どうやらこの世界でも魔王が人間を滅ぼして魔族の世界を作ろうとしているらしい。つまり、種族間の戦争か。
しかもそれはどちらも死にたくないからと言う理由で、世界征服といった野望は持ち合わせていないらしい。
……よかったな、魔族の者達よ。こいつらのお陰で、お前達の願いは成就するぞ。
もう一丁の銃の引き金を引き、鎧の男を穴だらけにする。撃ち出した弾丸は見事に鎧の男を貫通し、その先のローブを被った男女に突き刺さる。
悲鳴が聞こえ、恐らく罵声だと思われる声が私に向くが……悪意は全てアザギが食い尽くす。
鎧の男の霊体を吸収したアザギは、いつもと比べて僅かに深い笑みを浮かべて言った。
『……そこそこねぇ……。……でもぉ………絶望の風味が強くて良いわぁ……♪』
どうやらそこそこ気に入ったらしい。私は既に知識の収奪を終えたローブの男女を銃で撃ち殺す。どうも白兎を召喚したお陰で魔力が足りないらしいが、知ったことではない。障壁すら張れない魔術師の頭を撃ち抜き続ける。
白兎に話しかけていた金髪の女はこの国の王女と言うことなので、知識だけはしっかりしているだろうと脳味噌から知識だけを直接引きずり出す。
そしたら出るわ出るわこの国の後ろ暗いことから上層部の犯罪及びその隠匿。王自身は薬漬けで、その薬を持ったのはこの王女らしい。
この王女自身は体も富も何でも使って地盤を作り、それこそ上層部やそこに転がっている大臣並みに腹黒い。
その上この部屋から出る時にとある魔術を使って召喚した勇者を洗脳し、国の命令………ではなく、自分の命令に絶対服従させるつもりでもあったようだ。
殺し尽くした人間の魂をアザギが食べ終わったのと同時に、私はこの世界から人間だけを殺し尽くす呪いを編み上げた。
呪いがかかる因子は、人間の血が流れていること。半人だったり、先祖に人間が居るものには悪いが、一緒に殺させてもらうぞ。
『……うふふふ………食べるのがぁ……大変ねぇ………あはははははは……♪』
そう言いながらも、嬉しそうに笑っているがな。
……さて、それではこの世の全ての人を滅ぼそう。私の憤怒と狂気と憎悪を込めた、全力の呪詛で。
『……くすくすくす……ごちそうになるわねぇ………?』
ああ。頼んだ。
世界全てに存在する人間を呪ってみたところ、何故か自然の植物以外の全ての動物が死に絶えてしまった。はて? 何故だろうな?
私の予想では、この世界のほぼ全てに人間の手が入っており、人間や亜人は勿論、知識のある魔物や魔族もほんの僅かに人間の血が流れていたのではないかと思われる。
自動人形や機械兵にも効果があったと言うことは、これらの物にも血が使われていたと言うことだろう。
つまり、古代中国であった『人間を鉄と共に溶かして作った鉄を使って作られた武器』と同じようなことが行われていたと思われる。
……ちなみにこの世界では、魔術を使う時には必ず魔力を含んだ血液が必要になるらしい。特に破瓜の血を使った魔術は、普通の血を使ったものより効果が上がるらしい。
その理由はわからないが、私としてはそれに白兎を使おうとした時点で理由を無視して殺してやるくらいのことは当然だったんだがな。
……まさか、せかいのどうぶつすべてににんげんのちがながれているなんて、おもっていなかったのだよ。
『……嘘だってぇ……子供でもわかっちゃいそうねぇ………ふふふふ……♪』
気にするな。
……さて、帰ろうか。
私と白兎は、何も変わることなく日々を過ごしている。さて、これからはいったいどんな話が待っているのやら……?
最終回っぽい雰囲気を醸し出すフルカネルリ。
《あ、もちろん最終回じゃないヨー?》