異世界編 4-11
演習場に行って、すぐに大きな魔法を使ってみる。やったことはなかったけど、今までの術式構築の練習は無駄ではなかったみたいで、時間はかかったけれど割と簡単に作ることができた。
作り上げたのは巨大魔法の一つ、錬金術の術式。既存の科学に真っ向から喧嘩を売ったこの術は、カザーネラが初めてこの世に出した術式の一つだった。
術の中心に適当な物を置いて、それが何でできているかをしっかり理解する。
スチール缶は……まあ、大体鉄だから……錬金先は銅でいいかな。作るものの原子番号が元の原子番号から離れれば離れるほど作りにくいそうだし。
イメージは完璧。後は術として発動するために、術式を書き上げて魔力を流すだけ。
もしかしたら初めてできるかもしれない魔法に、僕はドキドキと五月蝿いくらいに高鳴る心音を静めることができなかった。
高鳴る心音をそのままに、僕は術式を描いて魔力を流す。想像するのは、赤銅色に変わった缶。
いつもなら術式が壊れてしまうほどの量の魔力を流し込んでも、錬金術の術式はいまだにそこにあり、真ん中に置いてある缶を少しずつ変えていく。
実際は数秒だったんだろうけれど、僕には数十秒にも数分にも感じられた魔法発動が終わり、さっき置いたスチール缶を手に取ってみる。
インクは全て剥がれてしまい、地金をさらしてはいるけれど……その地金の色は綺麗な赤銅の色。つまり……
成功、だ……!
「やっ………たぁああぁぁぁっ!!」
僕は赤銅色の缶を両手で抱えて、その場で叫んだ。
それから、何度も魔法を使った。攻撃用だけでなく、巨大な防御用や補助用、回復魔法も手当たり次第に試してみた。
何度か失敗したし、ある程度よりも小さいものだと術式が潰れて消えちゃうこともあったけれど、それでも今までに比べると考えられないくらいに成功してくれる。
周りを壊さないように加減しながらも、しっかりと発動するのを確認する。
「あ……あははははっ♪」
つい笑ってしまうけど、これは断じて僕が魔法ジャンキーって訳だからではない。今までできなかったのができるようになって嬉しいだけだ。
……今まで僕が魔法を使えなかったのは、術式が耐えられる魔力量にまで抑えられなかったから。だったら抑えられない魔力量でも耐えられる術式を使えばいい。そんなことにも気付かなかった僕って、本当に馬鹿だなぁ……という自嘲の笑いでもある。
ついでに、魔法が使えるようになって調子にのって使いすぎて気絶する僕は馬鹿だなぁ……という意味も………あった……り……………。
「琢実!? ちょっと琢実っ!!?」
……気絶する寸前に、美保の声が聞こえた気がした。
「使えるかどうかの確認もせずに、いきなり気絶するまで魔力を使うものがあるか、馬鹿者」
保健室で目が覚めて、一番始めに言われた言葉がこれだ。確かに後先考えずに魔法を使って気絶してしまったけれど、少し酷いと思う。
「それに、同じ魔法を何度も使っていたが、あれは知っている魔法の数が少なかったからだろう? もう少し学んでからやるべきだったな」
……あれ? なんで同じ魔法を何度も使ったって知ってるの? フルリ先生居なかったよね?
「これでもそこそこ長く生きているからな。この場に居ても魔力の流れを読めばどのような術式を使ったかはわかる」
「それってかなりの高等技術だったような……」
「そんなことはない。少しの練習と努力で大体の者はできるようになる。しかし魔法の威力や術式の構成速度にばかり気にしているからできない者が多いだけだ」
「……僕でも、できるようになりますか?」
「努力すればな。ヒーローズになるなら得意不得意はともかく、この技術は必要だぞ? 不意打ちを受けにくくなるからな。青柳にも教えたぞ?」
そう言われて、青柳さんがどうしてフルリ先生のことを知っていたのかがわかった。そして、青柳さんが妙にフルリ先生に丁寧な言葉を使っていたかも。
フルリ先生は青柳さんの魔法の先生で、ヒーローズに必要な能力を教えてくれた人でもあるんだろう。だからあんなに丁寧な事を……。
……そこでふと気になった。確か、青柳さんは今年で25歳。青柳さんが高校生だったのは、最終学年で考えても七年前。その青柳さんが『まだ』と言っていたことから、フルリ先生は青柳さんが最終学年になる前には保健室で先生をしていたはずだ。
……じゃあ、フルリ先生って………何歳?
先生だから、赴任したのが最低でも20歳として……その年に青柳さんが入学していたとしても三年で23歳。それから七年で、最低30歳。
……30歳? この顔で? どう頑張っても22くらいにしか見えないのに?
しかもこれは最大限若く見た場合で、実際にはそこまでうまくはいかないだろうし……もっと年上?
……美保がその事を聞いたら、全力で若さの秘訣を聞き出そうとするんだろうなぁ……。
そんを込めながらじっとフルリ先生を見つめていると、不意に仕事の手を止めたフルリ先生が僕のことを見つめ返してきた。
「私は42だ」
「……声に…………出てました?」
「いや、表情と魔力の乱れから推測した」
魔力の乱れって……そんなことまでできるんだ……って、今凄いこと言わなかった!?
「よ……42歳!?」
「ああ。免許証でも見せようか? 最近は通勤以外には乗っていないが、生年月日くらいはわかるだろう」
そう言ってフルリ先生が見せてくれたバイク(大型二輪)の免許には、確かに今年で42歳になると言うことが書かれていた。
……なんでこんなに若々しく見えるんだろう?
「修行の賜物だ」
その言葉に、とりあえず納得しておいた。
フルカネルリの非常識を味わった少年S