異世界編 4-7
家を出ると、そこにはいつもの景色が広がっている。この景色もこれからしばらく見れなくなると思うと、少しだけ感慨ぶか
「たっくみー!おっはよー!!」
「ごげふっ!?」
いきなり背中を叩かれてむせる。声から誰かはわかっていたけど、また叩かれてはたまらないから叩いてきた相手に顔を向ける。
………咳き込みすぎて涙出てきた。
「あ……あははは……ごめん、強すぎた」
「え゛ほ、えほ……ごほ………あ゛…………ふぅ。……いつも言ってるけど、もう少し加減して。美保」
その相手とは、僕の幼馴染みの桃野 美保。よくこうして僕の背中を叩いてくるのだけれど、それが毎回かなり痛い。
その度に注意はしているけれどやめてくれる気配はいっこうになくて、そろそろ諦めてきている。
……いやまあ、本当は十歳の頃には諦めてるんだけどさ。
「まあ、それより早く行かないと遅刻しちゃうよ?」
「平気だよ。魔法学校まで二時間もかからないんだから。今5時だよ?」
入学式の時間が9時からだし、普通に間に合う時間のはずだ。
「琢実は馬鹿魔力で身体を強化できるかもしれないけど、私はちょっと術式構成を頑張るだけの凡人なのよ。まあ、そこそこ才能のある凡人だけど」
才能があったら凡人じゃないと思う……なんてことは言わずに、僕は魔法学校行きの電車に乗るべく歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ~」
「はいはい、時間はあるからゆっくり行くよ。迷子にならないでね」
「むっ!もうなりませんよ~だ」
美保はそう言うけど、昔からの美保の方向音痴を知っている僕としては気が気じゃない。だって美保は、いつの間にかいなくなっていて、いつの間にか変なことに巻き込まれる天才なんだから。
昔はよくかくれんぼの最中に消えて、夕方くらいににこにこ笑って帰ってくることが多かった。
そして帰ってきた美保の手には、いつも何らかの道具や貴重なものが握られていた。
それは今でも続いていて、初めて行く所だったら確実に迷子になり、何回か行っているところでも迷子になり、行きなれたところでもたまに迷子になるというびっくりするような能力だ。
それでもなんでかいつも怪我のひとつもしないで帰ってくるし、何年も通い続けている学校や僕の家なんかには割と迷わず来れるみたい。
けれど、今回は確実に駄目。初めてではないけれど数回しか行ったことの無い場所だし、地図もGPSも無い。あっても美保は迷うんだけど。
だから僕はいつもの通りに美保の手を掴んで道を歩く。反論も抗議も受け付けない………とは言うものの、今までに抗議の一つすらされた覚えがない。
むしろ美保はにこにこ笑っていて、僕の手を握り返してきた。
……美保の手って、こんなに柔らかかったんだ。昔はそんなことは気にしていなかったのに、今になって気になり始める。
「ほら、何してるの琢実。行くわよっ!」
美保が僕の手を引くけれど、僕はそれについていけない。
……だって、いま丁度赤信号だから。魔法学校高等部の初日に死亡とか、ほんとに勘弁してほしい。
僕は美保に気付かれないように、そっと溜め息をついた。
……また、美保に振り回されるんだろうなぁ…………。
何度もいなくなろうとする美保を引っ張ってようやく到着した魔法学校高等部。今日から僕たちはこの場所で勉強をするわけだけど……クラス分けの紙を見ている少しの間に、美保はまたいなくなってしまった。
ちなみに僕と美保は二人とも二組で、またおんなじクラスらしい。これで何年連続かな?
……って、美保は………大丈夫かな。施設内だとその中でしか迷わないし、学校の中だったらそこまで危ないものは無いだろうし。
……先に教室行ってよ。
学校の中を探検中。今は……って、ここどこだろ?
よくわからない場所にいたので、とりあえず誰かを見つけたら場所を聞いてみようと思う。
そう思いながら歩いていると、電気のついた部屋が見えた。ちょうどいい、ここで場所を聞こうと扉の上についているプレートを見る。
『保健室』
そこにはそう書いてあった。
とんとんと扉を叩いて、静かに扉を開ける。
「失礼しまーす……」
「いらっしゃい」
そこにいたのは、真っ黒な髪をしたきれいな女の人だった。
机に向かってなにかを書いていたその人は、私が入るとその手を止めて、私のことをその真っ黒な目で見つめる。
「……やれやれ。怪我人ではなくただの迷い人か。立体地図がそこにある。後で返しに来い」
それだけ言ってその女の人はまた手を動かし始めた。
私はその女の人の指差した方向にあった地図を借りて、借用名簿に名前を書いた。
「あの……ありがとうございました」
私はお礼を言って、保健室から出ていった。
……そう言えば、あの人の名前とか……聞いてないや。
迷子になっても幸運な少女の話。