異世界編 4-1
フルカネルリだ。なんの編鉄もないビルの上に降り立つ。今回は妙な妨害は入らなかったようだ。
「……さて、それではまずやることは………戸籍を偽造することか」
戸籍さえあれば合法カジノで適当に賭けていれば必要な物は大抵増えるしな。
そのためには……まあ、何人か少しの間洗脳させてもらうことになりそうだが、用が終われば解放するさ。
とりあえず、今は転移の際の魔力を読み取ってこちらに向かっている誰かから逃げ切らなければな。
……いや、顔を隠して接触し、この世界の情報を得るのもいいな。そちらにしよう。
そうと決まれば前の世界でよく使った占い師風の地味なローブを着て、フードで顔を隠すと同時に声を認識できるが妙に聞こえる術式を使ってから、占い師としての仕事中はいつも使っていた椅子と机のセットを用意した。
向こうから攻撃を仕掛けてこなければこちらから攻撃することはないし、向こうは一応公僕らしいので、こっちから攻撃を仕掛けなければ攻撃してこないはずだ。
その間に知識を得るために解析し、できればこの世界の魔法とやらはどのような形式かを理解できればなおよし。終わったら占いをしてやることにしよう。
まあ、この世界のことはよくわからないので、当たるかどうかはわからないがな。
《そこそこ当たると思うヨー? 本気でやれば99%強デー、気を抜いてやっても80%くらいはネー》
そうか。
まあ、所詮はただの情報を集めるための行動に過ぎないわけだし、あまり本気でやる必要もない……か。
そこそこ気合いを入れつつ、当たっても多少の不幸、または幸福で済む範囲の予言に留めておこう。
……妙な真似をしてこなければ、の話だが。
《この会合にこの世界の命運がかかってるんだネー》
そこまで重要な話ではない。ただ、私が情報を得たいというだけだ。
「貴様は何者だ」
これが、私を見た者が一番初めに発した言葉だ。
まあ、気分はわからなくもない。怪しいものな。
だが私はそれに答えず、その相手を解析し始める。
……名前は蜂谷陽子。年齢は23。五年前に日本の魔法学校を首席で卒業し、現在は国家魔術師の実働部隊の小隊長を任せられているようだ。
得意の魔法の属性は火と、補助程度に風を使う。風によって火を増幅したり、相手に聞こえないように指示を飛ばすことができるため、この若さで小隊長を任せられるようになったらしい。
ここに来た理由は、突然転移の術式の起動が感じられたため。主に調査を命じられているが、原因がなにか、また、転移で現れたものが危険なものだった場合の封印処理も。
身長168cm、体重56kg、スリーサイズは上から79、56、81。黒髪黒目であり、純日本人という見た目をしている。
苦手な術は封印系で、常に封印用の札を仕込んでいるらしい。
まあ、銃のかわりに魔法を使う警察とでも言えばいいだろう。
「答えろ。貴様は何者だ」
……やれやれ。あまり焦るな。そんなのだからお前は彼氏に逃げられるのだ。
そう思いながらも、私は占い師としてのいつもの通りに振る舞う。
「私は、ただの占い師さ。なんなら一つ占って見せようか」
目の前に置いてある水晶に魔力を少量込め、読んだ結果を映し出させる。
今回占った内容は、目の前の女はいくつになったら結婚までこぎ着けられるか。言わなければだいたい当たる占いの結果………28まで男の影が無く、32になっても男の影が無く、よく見てみると女の影がある。
……つまり、そう言うことなのだろう。
「まあ、三十路までは結婚できないと出たね。選り好みのし過ぎが原因さ。もう少し理想を低くして、理想に当てはまる相手がいたらすぐに狙ってみたらどうだい?」
「大きなお世話だっ!」
ギンッ!と睨まれたが、全く怖くない。アブホースの眼力に比べたら、ミミズと核弾頭搭載型大陸間弾道ミサイル掃射程の差がある。
「なに、ただのおせっかいと聞き流してくれて構わないさ。ただ、自分は名乗らず相手には名乗らせると言うことを当然のようにやっている恥知らずな相手にはこれでよかろうとも思っているが」
ちなみに相手は一人ではなく、五人が私の前に出ていて他に数人が伏兵として隠れているようだ。
魔法の狙いをつけるのは構わないが、殺気と闘気が駄々漏れだ。私にとっては、気付くより気付かない方が難しい。
「……まあ、別に名乗らないでくれても結構だとも。呪いを受けては問題だものな」
公務員で、犯罪者を捕まえることが多い現場の者で、小隊を動かす一番偉い者だ。恨まれていないはずがない。
まあ、私も名乗らないがな。
「……それで、占い師がこんなところでいったい何をしているのだ?」
「商売さ。それ以外にあるかい?」
当然だよな。占い師がこうして座って水晶玉を弄っているんだ。次の客が来るまでの時間潰し中にしか見えないだろう。
「それでは、質問を変えよう。先程ここで転移魔法の反応があったのだが……使ったのは貴様か?」
そう聞いてくると同時に、その女の後ろにいる一人の男の片目に、魔法の術式の反応を感知した。頭を読んでみれば、それはどうやら真実看破の魔法であるようだ。
「違う。私が使ったわけではない。私がここに来た時には、すでにここにうっすらと描かれていたが」
嘘は一つも言っていない。本当の事も言っていないが、真実看破の魔法は嘘か本当かしかわからない上、嘘をついたらその嘘付きが視界のなかで真っ赤になるというだけの、ちゃちな魔法だ。どうせわかりはしない。
「……そうか。協力に感謝する」
後ろの男から嘘ではないと言う情報を受け、蜂谷陽子は引いていった。
……さて、それではこれからどうしようか………。
面倒事を回避。