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フルカネルリだ。中学の制服だが、どうやら着なければならないらしい。校則でそう決まっているようだ。
仕方がないので男物を着用する。校則には『制服の着用義務』のことしか書いていないので、女が男物を着ようが男が女物を着ようが上は男物で下は女物にしようが自由だと言うことだ。
《確かにそれでも大丈夫だヨー。クトちゃんが言うには昔に同じことをした奴が居たらしいからネー》
なんだ、居たのか。そいつが男か女かは知らないが、前例を作っておいてくれたことには多少の感謝を。
あの邪神たちのことだから恐らく平気だとは思っていたが、前例があるなら確実に大丈夫だろう。無しだったとしても軽く許可しそうだが。
《そうだよネー。あいつらだったら普通に許可しそうだよネー》
学校に行ってみれば、やはり私は白兎と同じクラスだった。
ただ、担任はツァトゥグアという邪神に変わっていた。なんとなくナイアに雰囲気が似ているような気がするが、何か共通点があったりするか?
《おんなじ地属性の邪神だってところかナー? ツァトゥグアは非好戦的だかラー、仲良くしとくといいことあるかもヨー?》
良いことがあるから仲良くするというのも悪くはないが、それだけではつまらない。友になるなら共に居て面白い者がいい。例えばナイアやクトゥグア、ハスター達のように。
《………正直に言っテー、ハスターと一緒にされるのはちょっとあれかナー》
『……好き嫌いはぁ……駄目よぉ……?』
《そういう問題かナー?》
ナイアも、ハスターのことを嫌っているわけではないのだろう? だったらその程度の問題と言うことにしておけ。その方が面倒がなくていい。
……ところで、ツァトゥグアとは仲がいいのか?
《そこそこネー。さっき言ったようにおんなじ属性ってのもあるシー、そもそもツァトゥグアはボクたち邪神の中ではかなりの穏健派だしネー。イタクァなんかとは大違いだヨー》
そうか。邪神も色々と大変なのだな。神付き合いとか。
《そうだネー。そこそこ大変だヨー。あんまり弱い子の前で力を解放しすぎると、消滅しちゃうことがあるしネー》
『……私みたいにぃ……か弱い子がねぇ……』
《アザギよりも弱い子だヨー》
アザギは二つ目の世界の始まりの時には中級神程度には力を持っていたらしいからな。今ではもう少し強くなっているのだろう。どの程度かは……よく見えんが、中級だとするとそこそこ上の方か。
普段の姿を見ているとそこまで強いとは思えないのだが、人(人外含む)は見かけによらないと言うことだろう。
《上位神の領域に片足突っ込み始めてるアザギが『か弱い』っテー(笑)》
『……か弱いわよぉ……? ……ナイアにぃ……比べればねぇ………?』
《それ大体の存在はそうだからネー?》
だろうな。最上位にかなり近い邪神の交遊は、色々と面倒なことがありそうだ。
《わかってくれルー?》
まあ、予想はつく、という程度には。実際にどこが大変なのかは、体験したこともないしわからないが、その辺りは勘弁してくれ。
なんだかすごくお久し振りな気がします。春原白兎です。
今日は中学校の入学式。初めて袖を通す制服は新品の匂いがして、なんだか少し落ち着かないけど、そんな思いは桜の季節の雰囲気に呑まれてどこかに消えてしまった。
ランドセルではなくて鞄を持って、履き慣れない靴を履いて玄関を出る。
「いってきます」
「はい、いってらっしゃい」
玄関を出てすぐに、制服を着た同級生達を見付けた。みんなもなんだか少しそわそわしていて、落ち着きがない。
もしかしたら瑠璃もこうして落ち着きがないのかなぁ? 何て考えて、落ち着きのない瑠璃を想像してみた。
……何度やっても無理だった。慌ててる瑠璃とか見たことないような気がする………。
瑠璃はこういう感情があんまり外に出ないから、ほんとにわかりづらいんだよね。
でも、中学校では必ず制服を着なくっちゃいけないから、昔から見てみたかった瑠璃のスカート姿が見れるはずっ!
しっかり私の心のメモリーに記録しておくよっ!
私と同じ服を来て、恥ずかしそうにスカートを押さえる瑠璃。
『……スカートは……ヒラヒラしていて好かん。なぜ制服着用義務がある………』
あぁ、瑠璃ってばぁ♪ そんなに顔を真っ赤にして恥ずかしそうな姿を見せるなんてぇ……♪
お・そ・っ・ち・ゃ・う・ぞ♪
……おっと涎が。じゅるり。
白兎の夢が凍り付き、世界がぱりーん!と割れるまで、あと15分。
うぅ……あんなの反則だよぉ……まさか男物の制服を着てるだなんてぇ……ずるいよぉ……私の純情を返してよぉ………。
そしてマジ泣き。