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フルカネルリだ。毎年大晦日には年越し蕎麦を食べるのが我が家の決まりなのだが、その年越し蕎麦の色が薄い青というのはどうなんだ? 母は普通だと言っていたが、どう考えても普通ではない。これも母の能力の恩恵か?
《そうだネー。いろんな意味で凄い能力だよネー》
(普通に食えるものなら)どんなものを使っても普通に食べられる程度の味になる能力……か。どんな原理かわからんが、便利ではあるな。
「今年は甘茶を入れてみたの。きれいな青でしょ?」
「あまりにきれいな青すぎて不安になってくるくらいにきれいな青だな」
「ああ、哀華の料理の奇抜さには慣れることがないね。普通に美味しいし、体に悪いってことも無いからいいんだけど」
そうだな。なぜ問題がないか不安になりそうだが、実際問題はないし、美味い。
まあ、問題が無いなら構わないか。
《そうだヨー。あんまり気にしてると疲れちゃうヨー?》
『……研究対象にはぁ……なりそうかしらぁ………?』
さてな。流石の私も母の解剖は……あまりやりたくないな。力を解析する所で止めておくとしよう。
年越し蕎麦だけでなく、この国では蕎麦を食べる時にはすすって食べるのが正式らしい。前世での参加したくもないパーティーでは啜るのはマナー違反だったのだが………まあ、郷に入れば郷に従えとも言うし、わざわざ破る意味も無いし……と思いながら、私は薄い青の蕎麦をすする。
黙々と食べているがその沈黙にはあまり意味はなく、ただ話す時は口の中になにかが入っている状態で話すのは行儀が悪い行為らしいので、それに従っているだけだ。
ずるずると蕎麦をすする音が静かな部屋に響き、用意されていた蕎麦がどんどんと減っていく。
……なぜ蕎麦なのだろうか。確か年越し蕎麦に含まれる意味としては、長い長い麺を寿命になぞらえて、長寿という意味があったらしいが……。それならうどんでもいいと思うのだがな。
《慎ましやかな日本人ハー、おんなじ体積なら太く短く生きるうどんよりモー、細く長く生きる蕎麦の方が嬉しかったりするんじゃないかナー?》
……ふむ、なるほど。正直に言ってあまり理解できないが、そういうこともあるのかもしれんな。理解できないが。
《二回言ったネー》
『……重要……なんでしょぅ………』
そうだな。私にとってはかなり重要だ。
蕎麦を食べ終わり、私は自分の部屋に戻る。
目の前には小さな世界の入った壜と、水晶のように透き通った六色の木の葉のブローチ。特に意味もなく作ったものだが、それに内包された力はそれなりのものだ。
とりあえず、これは他人には渡せないな。なにか妙なことが起きてからでは遅いし、抑えられるのは邪神と私以外ではアザギと氷雨くらいなものだろう。
まあ、元々何かのために作ったわけでもないし、構わないが。
それよりも今は、新しい研究をしよう。私のクローンを使い、薬の実験や機械との融合や魔法生物化といった実験など、できることはいくらでもある。
私のクローンは基本的に知識の収集に貪欲なのは私と変わらない。というか私そのものと言ってもいいので、そのためなら自分が死んでも全く問題としていない。
やはり私は人間としてはかなりイカれていると再確認。だが、研究者としては実に正しいことだろう。
さあ、研究だ。私と私との間に子を作れば、それは完全に私と同じ遺伝子を持って作られるわけだが、それはクローンとは違って私に似ているだけの別人になる。それは確認した。
クローンと魔物の間の子は生殖機能がやや強く、最悪単性生殖もできるようになった。人の血が濃ければ濃いほど人に近付き、面白いことに人型と魔獣型との使い分けもできるようになった。ああ、面白い。
外道なことだと理解はしているが、どうしても止まらないし止められない。けして母にも父にも白兎にも言えないことだな。
さて、それでは新しく小さな世界を作るとしようか。私の研究成果の合成獣が犇めく、一時保管庫を。
あり得ないと言っても良いほど確率の低い話だが、もしもその世界に人が迷い込んだなら………恐らく地獄だろうな。
合成獣に食事は必要ないが、睡眠欲と性欲はあるからな。
実験として様々な薬や魔法で改造を施したから奇妙な能力(例えば強制性転換とか触られると腫れるとか液体に成るとか電気を発するとか影に潜るとか、そういった様々な能力だ)を持っているし、力の強いものはかなり強い。具体的には竜神王を押さえつけることができる程度には。
まあ、無いとは思うが迷い込んだら運が悪かったと思って諦めてくれ。
フルカネルリ外道編。