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フルカネルリだ。温泉郷の土産は酒饅頭と酒にすることにした。小学生でも買えると言うのは若干『法律違反では……?』という思考をさせられたが、なんとかなるだろう。
私は既に異世界では酒を普通に飲んでいたわけだしな。
この体になってから酔いが回ることがない。どれだけ飲んでもはっきりとした思考ができるのは嬉しいが、昔の感覚が懐かしくなるときもある。
《そんなフルカネルリに特別サービスだヨー》
『……ふふ……ちょっとだけよぉ………♪』
そう言ってナイアとアザギが渡してきたものは。どこにでもありそうな白い徳利と猪口だった。
だが、それは見た目だけ。解析してみると、なんとこの酒器は億どころか兆の単位でも間に合わないほどの長い年月を経験してきたようだ。意思もあるようだし、色々と奇妙な力を感じる。
妖怪の力、自然の力、人間の魂の力、悪魔の根幹を成す力、神の信仰より生まれるはずの力………いったいこれはなんなのだ?
そう思っていると、ナイアがえっへんと威張るように胸を張って言った。
《これは異世界からちょっと借りてきた、神魔人妖問わず招き寄せ、酔いを呼ぶ酒器。『酔呼の酒器』だヨー》
……そうか。色々不味くはないか?
《大丈夫だと思うけドー? まったくフルカネルリは心配性なのか神経が図太いのかわからないヨー。異世界だとあんなに大胆に動いてたのにサー。あんまり溜め込みすぎるとおっぱい大きくなるヨー》
五月蝿い、君の熱いショットガンに脳天ぶち抜かれて脳漿ぶちまけて死ね。
《ショットガン・ラバーズ!? 何で知ってるのサー!? あと久々に五月蝿い死ねを聞いた気がするヨー!》
『……まあ、実際久し振りだものねぇ………』
そうだな。いつぶりだ?
……まあ、いいか。流石にここで飲むわけにはいかないし、寝静まった頃に少し飲んだらナイアに返すことにしよう。
見たところこの酒器には酔わせる能力があるようだし、久し振りに酒で酔えるかもしれない。
ちび、と酒に口をつける。あたりめが酒に合っていてなかなか美味い。
「お前も悪だな? その年で酒を飲もうなんてよ」
「私は異世界生活の方もカウントすればとっくに十万は越えているよ。第一、お前も止めないだろうが。なあ、クトゥグア」
「まあ、美味い酒で買収されちまったしな。まさか黄金の蜂蜜酒まで出せるとは思ってなかったぜ」
そう言ってクトゥグアは自分で用意した酒杯に徳利から酒を注ぐ。この酒は力関係を完全に無視して酔わせてくる。そのお陰で私やクトゥグアも酔えているわけだが。
さて、それではアザギとナイアも呼ぼうか。美味い酒を飲むのは宴会の時の方が楽しい。一人で飲む酒もおつなものだがな。
「おいおい、本当に小学生か?」「肉体年齢的にはギリギリで小学生だ」
六年生だから本当にギリギリだがな。
とある邪なる神に連れられて来たこの地でも、私と小さなこは変わらず周りに酒をすすめる。
だが、邪なる神によって私達の力は制限され、招く程度の能力を使うことができなくなってしまった。
それでも私達は酔いを振り撒く。どうやら邪なる神は、私達を目の前の少女に使わせて酔わせてやりたいと言うことで持ってきたらしい。
………神に好かれた娘か。それはまるで諏訪子の風祝のようだな。
あの娘は確か諏訪子との間に子を作っていたが……まあ、どうでもいい話だな。
私にとって大切なものは、私を使って酔おうとしてくれるか。それだけだ。
そしてその点で言えばこの娘は大したものだ。酒が好きなだけの子供は多く存在するが、この娘のように『酒の味を楽しみながら酔おうとしている子供』はなかなかいない。
……うむ、気に入った。私達、酔呼の酒器の名にかけて、この娘を深き酔いの世界へと案内しよう。勿論二日酔いなどというものには邪魔はさせない。
さあ、娘よ。酔うがいい。
まさかの出張出演、酔呼の酒器。