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フルカネルリだ。修学旅行だが、今年は籤で行き先を決めたらしい。

今年の修学旅行先は………草津だそうだ。温泉で有名なところらしいな。こんな籤を入れたのは誰だ。


《クトゥルフだと思うヨー。あいつお風呂好きだしネー》


そうか、保健医か。……だが、保健医が保健室を離れて平気なのか?


《眷属のダゴンやヒュドラに任せるんじゃないノー?》


眷属か。私の見守のようなものか?


《似て非なるものだネー。ボク達の眷属は自分で産み出した訳じゃないシー》


……なるほど。つまりは赤の結晶獣と赤牙の関係のようなものか。支配者と、従うものという意味で。

もしくは任侠映画でよくある親分子分関係。


《…………まあ、そんな感じかナー。ちょっとだけ違う気がしなくもないけドー》


そうか。

……さて。旅行の準備といこうか。幸い旅館は貸し切りで、大半の時間が自由行動だから調べられるだけ調べておこう。

そうすれば、異世界で硫黄温泉が堪能できるかもしれないし、それを店にして簡単に拠点を作れるかもしれん。


まあ、そのためには最低でも【風呂が体に毒となる】という迷信が無く、さらに貴族が湯を張った風呂をたまに使える程度の時代であることが好ましい。

そうすれば王公貴族からも贔屓にされることがあるかもしれないし、硫黄温泉が不評なら炭酸泉でも薬湯でもいい。錬金術は万能ではないが、そのくらいは楽にできる。


地属性の魔法は実に便利だ。温泉を掘るのも形を作るのも建物を建てるのもみんなできるし、温泉がなければ作ることまでできる。


炎と水と地と、三つがあれば生活するには十分だ。風があれば余裕ができてくるがな。


まあ、そう言うわけで温泉だ。タオルは湯に浸けてはいけないんだったな。とりあえず二十ほど持っていけば堪能しつつ解析もできるだろう。


《ボクも入れるかナー?》


さてな。入るとしても男湯だぞ。


《女になれるけドー?》


解析してやろうか? 腹の中まで完全に見通してくれる。

……できれば子を孕んでもらい、それが腹の中でどう成長していくかをじっくりと見ていきたい所だが…………。


《男湯に入るヨー》


そうしておけ。




最近白衣の裾が短くなってきたので、錬金して作り直すことにした。昔はあれほど硬く感じたこの白衣も、今では少し硬い羊皮紙程度の感覚だ。

まあ、縫い跡があると肌に擦れてくすぐったいのでこうして錬金で一枚の布として作り直しているわけだが。


《フルカネルリも成長したネー……ボクは嬉しいヨー》


お前は私の親か。

……ああ、似たようなものか。この世界にこれたのも生まれ変わったのもナイアのお陰であることにはかわりない。

その点では、親と言えないこともないわけか。


……お父様と呼んでやろうか?


《できれば辞めてほしいナー》


そうか。なら辞めておくことにしよう。今まで通り、ナイア、と。


《そうしてくれると嬉しいかナー》

『……くすくすくすくす………お父様ぁ……♪』

《辞めてってバー》


面白そうだがやめておけアザギ。どうせハスターに聞かれているのだから、ナイアの渾名は明日からクトゥグア達の間ではお父様だ。


《…………え?》


なんだ、気付いていなかったのか? あそこだ。


私が指差したところには、にやにやと笑いながらなにかを記録している風なハスターが。


「ナイア。まさか君がお父様などと呼ばれているとは………面白すぎるよ……くくくくく………」

「五月蝿い!データ消せーッ!」


ぱっ!と実体化してハスターとカメラを取り合うナイア。ここまで慌てるナイアは初めて見たな。なるほど、ナイアがハスターのことを苦手としている理由がわかった気がするな。


「いいだろう。いつもはお前が私をからかっているのだから」

「ダメだヨー!」

「わがままなやつだなナイアは」

「フルカネルリにも裏切られちゃっター!?」


まあ、たいした問題ではないだろう。どうせ殺し合いになっても死にはしないんだろうし。

そうだろ? クトゥグア。


「……………………そーだな」


……なぜここまで落ち込んでいる? 修学旅行が草津で風呂嫌いだから、とかか?


「そうだよ。お兄ちゃんはお風呂嫌いで水嫌いなんだよね」

「……学校に残って仕事をしていればいいのではないのか?」

「それだとクトのことを見てやれないだろうがっ!」

「……シスコンね」


……やれやれ。風呂に入らなければいけないという義務はないのだから入らなければいいだけだろうが。


「  あ  」


……なんだ、本気で気付いていなかったのか。


「バカだからネー」

「おや、カメラはどうしたのだ?」

「ハスターと一緒に削り飛ばしてやったヨー。これでからかわれることは」

「なあ、お父様」

「死ねクトゥグアッ!」

「ゴヴェロッ!?」


奇妙な悲鳴をあげて、クトゥグアは吹き飛んでいった。やれやれ。懲りないやつだな。


「仕方ないのよクトゥグアだもの。まったくあの馬鹿………」

「……とか言いながらアブホースさんはお兄ちゃんを助けにいくのでした、と」


やれやれ。恋した女は強いと言うが、それは人も神も変わらないらしいな。

その恋の成就を………そうだな、星にでも祈ってやるさ。






  実は結構ロマンチストなフルカネルリ。




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