異世界編 3-21 Another side
フルカネルリだ。世界全てに喧嘩を売ってから五百年と少々。ようやく神族の方で知識ある生物から‘英雄’を作るシステムを組み上げ終わったと報告があった。やはりスパイは必要だな。そのスパイの実力と言葉を信用できればの話だが。
ちなみに今回のスパイは壊してから私に都合がいいように直した堕天した神族の一柱なので、信頼はしていないが信用はしている。
……さて、五百年以上の時をかけて作り出した神族の‘英雄システム’とは、いったいどれ程のものなのやら?
それなりには期待させてもらうぞ。
神々は魔王に踊らされるがままに英雄システムを作り上げた。
それは、神々と世界と生物達の力を凝縮し、様々な種族の個体に与え、その個体を‘英雄’とするシステムである。
その力を受け取った個体は人智を越えた力を得る代わりに、運命に囚われる。
意思が歪められる事は無いが、どうしても同じように‘英雄’に選ばれた者達と出会い、旅をし、そしていつの日か魔王を倒す事を運命付けられてしまうのだ。
例え死んだとしても‘英雄’になるための力はその者の魂を食って力を増して、いつの日か魔王を倒すことができるまで強くなり続ける。
それは、‘英雄’と言う名の‘呪い’とも言えるシステムだった。
これはその呪いによって人生を狂わされた、数々の生物達の話である。
ある日、全ての知性ある生物の頭に共通の認識が産まれた。
神によって作られた英雄システムのことが、昔から知っていた常識のように頭の中に入り込んでいたからである。
これは神によって‘世界すべてが一つの目的のために動けるように’と考えて実行した、世界全土を覆い尽くすほど大規模な洗脳であった。
当然これ程のものをできるはずもなかった神族の代わりに、魔王であるカザーネラが実験のついでに行った大規模魔術であるのだが、その事は神族でもかなりの上層部しか知らないことである。
それどころか、英雄システムのことも、行うために必要な下準備も、全てカザーネラがスパイを通じて行った巨大すぎる‘暇潰し’の一環だった。
こうしている間にも新しい生命が生まれ、その生命に‘英雄’の力が宿る。
‘英雄’に選ばれたもの達は何度も魔王の住む場に進み、その途中で命を散らせてきた。
人間の騎士も、エルフの魔導師も、ドワーフの鍛冶職人も、ドラゴンの戦士も、ヴァンパイアの剣士も、ダークエルフの弓使いも、ノームの魔導戦士も、魔族の盗賊も、男も女も関係無く。
そうして少しずつ強くなり、レベルと能力値の底上げを続けてきた英雄達は、ようやく少しは戦えるようになってきた。
とある場所で、一組の男女が歩いていた。
「……ヴァ~~………」
「……何て声を出してるのよ貴方は。もう少ししゃんとしたらどう?」
片方の、奇声を発した騎士風の人間の男が、剣の英雄であるレイド。もう一人の魔女風のエルフの女が、魔導の英雄であるウィフト。
二人は旅の途中で出会い、魔王を倒すために共闘して力を蓄えていた。
仲間の集まりは良くないが、この二人はそれならそれで力をつけようと考えるものだったのであまり問題はなく旅を続けていた。
「……仕方ねぇだろ……あぢいのは苦手なんだよ………」
「……まったく。人間と言うのはつくづく弱いわね」
「……そう言うのはその冷却魔導を使うのをやめてから言ってもらおうか」
「嫌よ。暑いもの」
「………この女……言ってることがさっきと違えじゃねえか……」
「は? 私が冷却魔導を使っていると言うことと、貴方がつくづく弱いと言うことになんの関連性があるのかしら?」
「……可愛くねえ女だなてめえはよ」
「そうね。自覚はしてるわ」
そう言いながらも二人は離れることなく灼熱の砂漠を歩き続ける。
すでにこの周辺に生息している魔物ではこの二人には手も足も出ないため、二人の意識は足下からの奇襲以外にはそこまで向いていない。
「……で、カザーネラを倒すために必要な道具はどこにあんだっけ?」
「もう忘れたの? 禁じられた地下遺跡都市の中央にある、英雄以外は戻ってこれたものがいないというダンジョンよ。そこに入るために、わざわざ海底遺跡から天空城に上るための金色の翼を集めたんじゃないの」
「……で、またあの爺さんと話をしなくっちゃならねえのか?」
「ちょ、この馬鹿!海を統べるポセイドンに何て口のきき方をしてるのよ!? 殺されても知らないわよ!?」
「知るかよぅ。と言うか海の神にも勝てないのに、なんで神どころか世界全てを敵に回して圧勝してるカザーネラに勝てんだよ」
レイドはウィフトにそう言うが、ウィフトは大したことじゃないと答えた。
「カザーネラは神々と直接戦ったことは無いわ。神々と戦ったことがあるのは、親衛隊と騎竜隊くらいね。もしかしたら、カザーネラ本人は魔力以外はあんまり強くないのかも知れないわ」
「そうかぁ? 俺の勘だと腐れ強ぇってなってんだけどよ」
「いいからさっさと歩きなさい。置いてくわよ」
「へいへい」
世界最大級のマッチポンプを楽しむフルカネルリ。
おまけ
【
名前:レイド・ブレイド
Lv:25539
性別:男
種族:人間
年齢:21
HP:62000951
MP:89225
攻撃力:309522
防御力:293660
敏捷度:52230
魔力:4292
運:6200
機動力:15×3
通常スキル
長剣:Lv8
体術:Lv7
気配遮断:Lv2
特殊スキル
剣の英雄
】
【
名前:ウィフト・ウィッチクラフト
Lv:24882
性別:女
種族:エルフ
年齢:32
HP:2566380
MP:8923699
攻撃力:134088
防御力:211056
敏捷度:53264
魔力:9669280
運:6399
機動力:18×3
通常スキル
魔導:Lv8
魔導具使用:Lv6
魔導具作成:Lv4
気配遮断:Lv3
高速詠唱:Lv6
特殊スキル
精霊の加護
魔導の英雄
】
英雄システムについては、ヴァンパイア十字界という漫画のブラックスワンを想像してください。
ただし、ほっといても食い殺されはしませんが、なにかに巻き込まれて死にます。