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フルカネルリだ。小学校の授業が簡単すぎてつまらない。なんとかならないだろうか?
《無理だと思うナー?》
そうか。それは悲しいな。
とりあえず授業の方は置いておくとして、最近の私は学校の図書室をよく使わせてもらっている。ここの方がまだ有意義だ。
…ほう、地球とはこのようにして出来ているのか…………今の科学は素晴らしいな。
《正直言ってボクもこんなに早くここまで伸びるとは思ってなかったかナー》
そうなのか?
《うん、そうだヨー》
そうなのか。
数週間の時間をかけて、私は図書室の全ての本を読みきった。放課後にもここに来て下校時刻まで粘った甲斐があったというものだ。
《……よく三週間ちょっとで全部読めたネー》
なに、昔から速読は得意だったのでな。その上この体になってからというものさらに速度が上がったのだ。
今では旧約聖書でも十分あれば読み終えて内容を丸暗記できるぞ?
《………もう一回聞くけドー、フルカネルリってホントに人間なノー?》
恐らくは。
《断言してヨー!》
無理だな。
《無理なノー!?》
ああ、無理だ。
……ん? 誰か来るな。これは…………、
「瑠璃ーーっ!!」
ああ、やはり白兎か。
「図書室では静かにな」
「あ、うん」
白兎はあの日からなぜか私によくついてくるようになった。最近では私と一緒に図書室で本を読んでは頭を悩ませるようになっていたのだが、理由は不明だ。
《鈍っ!?》
五月蝿い、カジキマグロに脳天から貫かれて死ね。
《早速図鑑の知識が活用されてルー!?》
当然だ。知識とは使うためにある。使わない知識などそこらのゴミにも劣る。ならば使うしかないだろう?
「ねえねえ、今日も図書室に行くの?」
ナイアと話をしていると、不意に白兎が話しかけてきた。
「今日は昨日借りた本を返すだけだがな」
「じゃあこのあと一緒に遊ばない?」
なんと、私に誘いがかかるとは。両親以外からは初めてだな。
……………このあと、か。何か予定が入っているわけでもないし、やれることはほとんどない。ほんの少しできることは他の行動と平行してもできる思考実験程度だし、……まあ、構わないだろう。
「いいぞ。どこに行く?」
私がそう聞くと、白兎は急に驚いたような顔になって、それから少しだけ頬を朱に染めながら、おずおずと口を開いた。
「……そ、それじゃあ、私の家に来ない?」
瑠璃は変わった子だった。
放課後になるといつもすぐに図書室に行って本を読む。それがまたすごく早い。
私が隣で本を一冊読み終わるまでに瑠璃は両腕に山のように積んだ本をすべて読みきって、その本を返してまた山のように持ってきてを二回ぐらい繰り返してるのはもう当たり前で、あまりの早さにどんな読み方をしているのかと思って瑠璃の方を横目で見てみると、瑠璃は本をぱらぱらと1ページずつ流すように読んでいた。
それで本当に読めているのか不思議に思ったので聞いてみると、瑠璃は読み終わった本の中から好きなのを選んでページを指定すれば読んでやる、と言ってきたので私は適当に一冊引っ張り出して、真ん中辺りのページを言ってみた。
瑠璃はそれを聞くとすぐに読み上げ始める。右側のページの一番上から左側のページの一番最後まで。
しかもその時も本を読むのをやめずに、ぱらぱらと流すように読み続けていた。
「……瑠璃って、すごいね……」
私がそう呟くと、瑠璃は本から顔をあげて私の目を見た。
「ありがとう」
……そしてそれだけ言ってまた本に視線を落とした。
そんな瑠璃が、今、私の部屋に来ている。
ある程度片付けてはいるけれど、なんとなく気になってしまう。
あれはちゃんとタンスの中に入れたよね、とか、瑠璃ってどんなことが好きなんだろ? とか、本当に色々。
気が付いたらもう瑠璃は帰らなくちゃいけない時間で、私は玄関で瑠璃を見送っていた。
「それじゃあ、また明日学校でね」
「ああ」
瑠璃はそれだけ言うと、くるりと私に背中を向けた。
「……ああ、白兎」
そのまま瑠璃は顔だけを私に向けて、
「なかなか楽しかったぞ?」
そう言った。
ふわっと私の中に暖かい何かが生まれた。
「今度は私が白兎を招待しよう」
私は瑠璃のその言葉に、元気よく頷いた。
この日は嬉しくて嬉しくてなかなか眠れなかった白兎の最初の記念日