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異世界編 3-10

 

フルカネルリだ。卒業の際に提出した魔導書だが、この度めでたく禁書になった。

何でもこんな風に魔力を込めるだけで何度も使える魔導が本として残されてしまうと不味いと言うことらしい。

……まあ、私はそんなことは知ったことではないので、これからも作り続けるが。


もちろん種類は変える。他人の世界の中身を写したりするのも面白そうだ。


要するに、私だとばれなければ問題は無いわけだ。ばれたところで平気だとは思うが、面倒事は極力避けるに限る。


《フルカネルリにしては珍しい言葉だネー》

『……いつもは、そんなことは気にしないものねぇ………』


自覚はあるよ。だが、たまには骨休めもいいだろう。

時間はたっぷりあるんだ。のんびりゆっくり世界を見て回ることくらいは許されるだろう?


前回の世界は気弱な私には少々ハード過ぎたし、基本的に平和なこの世界が今は嬉しい。


《気弱…………?》


五月蝿い、鴉の嘴に眼球から脳まで貫通されて死ね。


『……鴉じゃぁ………無理じゃないかしらぁ……?』

私もそう思う。言ってみただけだ。




卒業はできたので、適当に占星術師として諸国を回ることにする。自分の未来を知っても楽しくないだろうに、なぜ知りたがるのだろうな?

未来とは私が唯一知りたくないものだ。私の知りたいものは、いまこの場にある現在であり、過ぎ去った過去であり、その二つの全てである。


ちなみに私の持論は『未来は変えられる』だ。

理由としては、私達が無意識にまたは意識して行っている全てのことは未来に繋がっている。ならば、未来は現在の私達の行動で移り変わり、誰もがそうして未来が変わっていっていることに気付かないだけで常に変わり続けているということだ。

……まあ、当然のことなんだがな。


《ちなみにその未来はボクたちみたいなそれなりに高位の神が覗き見するトー、よっぽどのことがない限り固まっちゃうんだよネー》


ほう? そうなのか。まあ、ナイアが未来を覗き見するのは構わんが、見た未来を教えるのだけは辞めてくれよ。


《大丈夫だヨー。フルカネルリが関わると未来が全然見えなくなるシー、見えても大抵外れちゃうからネー》


……そうだったな。

そういえば、私がひとつ前の異世界に行く前のあの世界の未来はどうだったんだ? 魔王は倒せたか?


《魔王が世界征服をしたヨー。人間たちを従えて神の位階まで上がろうとしたけドー、失敗して世界ごと滅ぼされちゃってたネー》


そうか。まあ、何でも構わないがな。その世界も見てみたかったような気がするが、無理だろうしな。


……さて、思いを馳せるのはここまでにして、先のことを考えようか。


基本は占星術師として簡単な占いで日銭を稼ぎ、噂になる前にその場を去る。逃げるだけならば大体の相手から逃げることができるし、解析の結果、ここの世界でも私に勝てるものは殆どいないだろうという結論に達した。

そのため道中の事は気にしていないし、狩もできるし水も塩も魔法(魔導ではない)で作り出せるので問題ない。と言うかまず飲食の必要がない。


そして世界を回り終えたら前の世界と同じように辺境の土地に引きこもろう。育てるものがいない赤子を見付けたらとりあえず拾いに行って、色々なことに『使って』しまおうか。

この世界の人間は、個人個人で全く違うから研究に幅が出る。


内包する世界は親からの血が濃いのか、それとも生活環境によって変わるのか。

食生活は? 気温は? 近くにあるものの違いで変わるのか?


……まったく。人間というものは、私の研究意欲をこれでもかとばかりに掻き立ててくれるな。

終わりの見えない研究対象。だからこそ研究のしがいがある。


前の世界の人間との差を見てみるのもいいし、こちらの世界の人間を前の世界の人間風に改造してみるのもいい。機械を体に埋め込んでやるのも面白いな。


……まあ、とにかく今はすぐ近くにある旅の準備といこうじゃないか。






授業に出ることなく跳び級を繰り返した、学園最年少生徒のフルリ=カーネル。

学園の有名人であり彼女が宮廷魔術師や学園の講師の話を蹴って旅に出るという噂は、あっという間に学園中に広がった。

その噂の真偽を確かめるために、日頃から彼女に話しかけていた生徒が図書館へと走ったが、図書館の扉を開けた途端に噂の彼女に睨み付けられてすごすごと退散することになった。


あるときまで『落ちこぼれ』と呼ばれていた彼女が落ちこぼれと呼ばれなくなったのは、たった一度だけ参加した学園内対抗戦のせいだ。


優勝候補も並み居る秀才も、天才も凡人も全てまとめてたったひとつの魔導で殲滅した彼女。誰もが初めて見た彼女の魔導は、それはそれは美しく、そして強かった。

彼女がいつも実践授業で基本の基本である魔力操作ばかりを繰り返していたのは、魔導の威力の調整を完璧にするためだとか、新しい魔導を術として考えていたのだとか、色々と言われるようになった。


説明を本人に求めてみた者がいるらしいが、細かく詳しく詳細に精緻に説明されて知恵熱を出したという噂がある。しかも三日ほど。

だから誰もその説明を受けようとはしないが、誰もが彼女こそ学園一魔導に精通している者だと考えていた。


宮廷魔導師となって魔導の研究を続けるのだと思っていたが、本人はあっさりとそれを蹴ってしまった。

…………天才の考えることはわからない。





  フルカネルリの魔導学園武勇伝。




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