異世界編 3-9
フルカネルリだ。対抗戦で使った魔導に名前をつけた。名が有ると無いとじゃ威力や精度に大きく差が出るからな。
とは言え私のネーミングセンスは酷いの一言なので、この魔導の見た目そのものとも言える名前をつけた。
簡単に言ってやれば、花吹雪だ。
原理は実に簡単。炎を圧縮して花片のように形を整え、ゆらゆらと空中を踊るように動かす。
相手から触れれば触れたところはまず熱量で穴が開き、燃え出す。
こちらから圧縮した熱量を解放すれば、込めた熱量に見合った爆発を起こす。盾にも剣にもなる可能性のある魔導だ。
《説明は簡単だけドー、実行すると難しいヨー? 圧縮や熱量が足りなければ弱くなるシー、多すぎると制御できなくなっちゃうからネー》
その通りだが、私にとってはこの程度なら問題ない。
何より問題なのは、私のところに来る弟子入り志願者達の群れだ。
《……弟子入りって言うカー、自殺志願者じゃないノー?》
私もそう思うよ。
弟子入り志願者は何度も来るが、そのうち少しずつ減っていく。こんなことにかけている時間があるなら本でも読めと言ってやると、少しずつそっちの方に回る者と、嫌がって去っていく者の二種類に分けられる。
ほとんどはそうしていなくなったが、三月過ぎた今でも私に教えを乞おうとする馬鹿はいる。
……前にも言ったが、魔導は自分の意思を押し通して世界を塗り替えること。その方法を他人から聞いたところで、大して強くはなれない。
それどころか内包した世界が歪み、魔導が変質することもある。
…………実際に数人潰したからな。私は。
魔導の才能はあったが使えない者の頭を弄って使えるようにしてみたところ、確かに使えるようにはなったが……世界が変質したせいか実にマッドな思考をするようになっていた。
世界を覗き見たら、少し前までは泉と森と太陽が主体の小さな世界だったのが、泉と森は同じだが空に浮かぶのは月と星、そしてなぜか泉の上に小さく浮かぶ火の玉というかなりの変貌を見せてくれた。
もちろんその変化の過程は記録済みで、私の図書館の中にある一冊の本にその世界のミニチュアとも言える世界がある。
そこから魔導を起こすこともできる(規模は本物より数段下がる)ので、研究には実に良い。
……が、そこからの進化を見れなくなってしまうため、あまり手を加えることはしないようにしている。
手を加えすぎるとつまらないし、停滞しているものを見るのも気分が悪い。
ついでにその世界の星で占星術を行ってみたところ、的中率が98%を越えた。まだ十人程度しかやっていないため確定とは言えないが、ある程度運命のようなものを見取ることができるらしい。
まあ、内包する世界なのだからダイレクトに出てもおかしくはないが。
……それにしても占星術など久し振りだ。これは商売にできるかもしれんな。
卒業したら渡りの占い師として諸国を旅してみるか?
……それも面白そうだ。
《いろんな職業を経験してみるのも良いことだヨー》
わかっているさ。その方が視野も広がるし、幸運なことに私は異世界では年を取らないからな。ステータスの中では取っているのだが、外には出ないからわからないことだし。
……卒業試験の内容が楽しみだ。魔導書の作成ならば面白いのだがな。
……去年はそうだと聞いたし、今年もそうだとありがたい。私が楽しいからな。
それでは勝手にそうだと仮定して魔導書を作ろうか。
内容は……そうだな、魔力を流すと陣を作り、私の魔導である花吹雪を吹かせる物にしよう。威力を抑えれば綺麗だし、文句は出ないだろう。
例え出たとしても無視するか、もしくは実験体にするが。
ちょうど人間の内包する世界とこの世界の獣が内包する世界の違いを知りたかった所だし、むしろ何だかんだと言ってきてくれた方が嬉しい。
……くくくくくく♪ さて、研究だ。この世界には既に奴隷制度はあるし、死にたがりを買って実験体にするのも良いだろう。
人の言葉を教えず、獣として育てれば、内包する世界は獣のそれに近付くだろうか?
獣に知識と言葉を与え、人のように育てれば内包する世界は人のそれに近付くだろうか?
魔導書の紙には何が一番か。獣の生皮? 毛織物? 人の生皮? 植物から作った紙? 何を混ぜる? 属性で違いはあるのか? 生息地の違いでの差は? ああ、私の知らないことばかりだ。
ああ、知りたい。知りたい。知りたい知りたい知りたい。
もっともっと多くを知りたい。
さらにさらに深く知りたい。
もっと多くの知識を、更に深い知識を!
……ああ、知りたい。知りたい知りたい。
知りたい知りたい知りたい知りたい。
知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたいもっともっと深く深く多くのことを私は知りたい!!
……く……くくく……くくくくくくくかはははは!!
はーっはっはっはっはっはっはっはっは!
《……フルカネルリが壊れちゃったヨー…………》
外に出していないだけで元々こんなだ。
《一瞬で元に戻っター!?》
ぶっ壊れフルカネルリさんの哄笑。