異世界編 3-7
フルカネルリだ。入学には成功した。特待生のような物は無いらしいので自分で学費を払う必要があるが、それを行えば授業をサボろうが図書館に入り浸ろうが成績がよければ許される。中々良い学校だとは思わないか?
《きっつい皮肉だネー? そのくせ実践授業にはしっかり参加してるしサー》
実践は大切だからな。この学園では人目につく所で風と炎以外は使えないが、それでも。
ちなみに私はこの三ヶ月、おちこぼれを演じている。その方が楽だからな。
生徒の中での小さな苛めなどもあるが、軽く反撃してやっているし、問題はない。
…………どうしても鬱陶しくなったら洗脳してやるか、もしくは事故に遭ってしばらく休んでいてもらっている。事故の内容は、階段から足を踏み外す、魔導の実践での暴走または暴発、病気など様々で、今までに身内以外でバレたことはない。
………それもあって、今では私に手を出そうとする輩は減ってきた。初めの頃は本当に鬱陶しかったからな。
例えば研究の内容を日本語で書いたノートを盗まれて燃やされたり(実行犯と教唆犯の肝臓に焼かれる痛みを発生させる呪いをかけた。呪術スキルを手に入れて研究対象が増えた)、問題ないことは確認してあるのに本の貸し出しを無駄に渋られたり(脳から情報を引き出すときに渋るようにしてやった)、直接的な暴力を振るおうとしてきたり(ベクトル操作型防御魔導で跳ね返してやった)、貴族の坊っちゃんが父親の権力を笠に着て交際を迫ってきたり(私はどうやら美しい部類に入るらしい。断ったら騒いだので不幸にしてやったら父親が一月で没落。今までの不正が王宮に証拠と一緒に提出されたらしい)……実に色々あった。
私に関わると不幸になる、という噂が立ったが、便利なのでそのまま言わせている。外れてはいないしな。
今日も図書館に行く。教師達の頭の中身は殆どすべて読み終わったし、教わる事はもう無いと言っても良いような状態だからだ。
そもそも個人個人で自分の世界からの魔力の引き出し方や自分の世界の表出の仕方も違う魔導を、他者から教わろうという時点で間違っていると思われる。
使えて精々一番初めの自分の中の世界の有り様を自覚する、といった所くらいな物だ。
私が前の世界で使っていた魔法と違い、魔導には同一の魔導を使うものは少ない。内包する世界が似通っていても、ほんの僅かなことでその世界は表情を変える。
使うものが怒っていれば、内包する世界の怒りを象徴するものが割合を増す。
それは例えば燃え盛る炎であったり、沸き立つ熔岩であったり、吹き荒れる嵐であったり、凍てつく氷河であったり、まばゆい閃光であったり、滲み出す暗闇であったり、猛り狂う化物であったりと、実に様々だ。
そしてその割合を増したものが、世界を内包する者の魔力を産み出し、そして外の世界に侵食することもある。
ちなみに私の世界は巨大な図書館だ。
高すぎる天井には今までに調べた鳥やドラゴンなどが舞い、調べたあらゆる動植物が存在している。
雨も降るし風も吹く。泉もあれば山も火山もある。
そんな異常にまでに広い図書館だ。
……その外には、私の知ったあらゆる言語が空を流れていた。
その言語群はある程度集まると形になり、図書館の中に吸い込まれるように消えていく。
これは恐らく、私の知識の収集を表しているのだろう。
私の中で知識と言えば本というイメージがある。そして、今までの経験から本と言えば図書館というイメージもある。
つまり、私にとって私の世界とは、知識の収集と収集した知識を元にした実験と観察。自分が育てた子供すらも実験動物のように扱う私には相応しい世界だと思わないか?
《そこにはボクはいるノー?》
『……わたしはいるはずよねぇ……?』
ナイアは少しだけ居る。性格などが少しはわかっていると言うことだろう。
そしてアザギだが、私の知識の塊である本を掃除して回ってくれている。埃も無いし本を食う虫もいないが、そうしてくれるのはありがたい。
『……わたしじゃないからぁ………複雑な気分ねぇ…………』
なに、気にするな。
………さてと。水の中でも燃え続ける炎の魔導でも開発するか。これを使えば湯を沸かすのが相当楽になるだろうし、うまくいけば次は狙ったものだけを燃やすことができる炎に繋がるし。
私の世界の中に居るクトゥグアを表出させれば、水も氷も岩も空間すらも燃やせる炎ができるだろう。
…………実に楽しみだ。
マッドアルケミスト、フルカネルリ。