異世界編 3-6
フルカネルリだ。山もなく谷もなく魔導学園に到着。あまりにも山も谷も無かったので、つい暇潰しの思考実験に没頭してしまった。
お陰で魔導の種類がかなり増えたが、私の魔導は他人の魔導とはどうも根本的に違う気がする。
まあ、魔導が全く同じ者が居たら恐ろしいが。時軸が違えば変わるものだし、世界が変われば違うものだし、その日の朝に食パンを食べたかクロワッサンを食べたかでも十分変わっていくし。
特に私は異世界人なのだから、この世界の者と魔導が違っていても全く妙なところはない。
そんなことよりも今は実技だな。筆記試験はあってないようなものだったし、知識がなくとも魔導は使えるし、知識が無いからこそ学園に通う意味がある。つまり実力があればある程度はどうとでもなると言うことだ。
……まあ、なんでも構わないがな。
「それではまず、使える属性すべてを教えてくれたまえ」
私の前で椅子に座っている老人は、優しく見える視線を私に向けてそう言った。
その回答として私は、無詠唱で炎と風を生んだ。実際はもっと多いが、これで十分だろう。
「……それだけかね?」
無言で頷く。この世界では使える属性の数が多くても少なくても、大して反応は変わらない。
だが、一人一人が世界を内包するこの世界では一人が四つや五つの属性の適正を大なり小なり持っていても不思議ではない中で、二つと言うのは少ない方なのだろう。
………それでも魔導師自体が少ないため、十分に希少ではあるのだろうが。
「……それでは、魔導スキルはいくつだね?」
「8」
「…………8?」
あ、顔がひきつった。まあそうだろうな、この老魔導師の魔導スキルは7だし。十分大魔導師と呼ばれるだけの実力はある。
ステータスを開いて、魔導スキルを見せる。そこにはしっかりとLv8と出ているはずだ。そう見えるように偽装したし。
……無属性の魔導は便利だな。特に幻術は。
「……よろしい。入学を認めましょう」
「それはどうも。……ああ、できれば騒がれたくないので私のスキルについてはご内密に……」
にこりと形は笑って、部屋を出る。教師相手ならともかく、生徒が相手なら落ちこぼれ扱いされていた方が動きやすいからな。邪魔したら銀の煙を吸ってもらうが。
儂がその娘と出会ったのは、季節が順繰りと回り終わり、次の一周へと差し掛かろうとしていた頃の、ある入学試験の日の話だと記憶している。
その年は確実に不作だった。実力があれば上に行くことができると言うのがこの学園の基本だったが、その年の入学生は光るものを持つものが少なく、持っていたとしても実に小さなものばかりという上にあがるのが絶望的とも思えるような…………教師の言うことではないが、才能のある生徒のあまりの少なさに辟易としていたときに、その娘が現れた。
その娘と目を会わせた瞬間、儂の体に衝撃が走ったかのように思えた。すぐさまステータス看破のスキルを使ったが、そこに見えたのは名前とLv、そして人間という種族名だけ。
ステータス看破は、自分のステータスとの差が三倍以上ある相手には効果が無く、そして自分の持っていないスキルを相手が持っていた場合はそれも見えなくなってしまう。
それを利用して戦うときの判断基準としているが、ここまで見えない相手は初めてだ。
それも、その相手のLvはたったの1。見たところ十程度の娘とは思えない。
それでもここは魔導学園。魔導を習いたいものならば、相手が何歳だろうと誰だろうとLvがいくつだろうと受け入れる。それがこの魔導学園だ。
儂は努めて笑顔を保つ。今思えば必要なかったかもしれんが。
聞いてみれば魔導の適正は火と風で、魔導スキルはLv8だと聞いた。
……しかし、恐らくそれは嘘だろう。8ならば儂のステータス看破で見えるだろうし。
それでも儂はその事については何も言わなかった。なにかを言って聞く相手ではないと思ったと言うこともあるし、なにかを言ったところでこれほどの才能の塊を入学させないというわけにもいかないと言うこともある。
面接室から去っていく娘を止めることもなく、儂は娘の事がかかれた紙に、合格とだけ書いておいた。
これが、儂とあの娘の出会いの一部始終。後の『魔導の最奥』との初の会合だった。
有名になることが確定した話。