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2-3

 

フルカネルリだ。栄えある小学校最初の授業らしい授業は何故か音楽だった。私はどんな反応を返せばいいと思う?

《歌えばいいんじゃないかナー?》

それはまた後でな。


学校に来て最初にすることは、クラスを見て、それから学校の中を見て何がどこにあるかを把握することだ。前のままでも全て記憶できただろうが、今ならばさらに詳しく知る事ができる。

見たものの名称を知り、どのような使い方をするかを覚え、形を記憶し、次のところへ移動する。

校庭と一階から三階までは一時間目が始まる前に記憶したが、四階より上は放課後になるまで行くことはできないようだ。

ちなみに一学年の教室は二階に存在するので既に確認は済んでいる。

私のクラスは三組。全員で三十七人いるクラスで男女に別れている出席番号は十四番。男女を合わせると二十九番と割と後ろの方だが私の席は一番左の一番前。

既に多くの少年少女が話したり笑ったりしている中を私は突っ切って自分の席へと向かう。何人かが私を見てヒソヒソとなにかを話しているが、私にはどうでもいいことだ。

《……ホントにいいノー?》

構わん。

私がそうして座って本を読んでいると、誰かが私の席の前にやって来た。

……誰だ?

私が顔をあげるとその誰かの顔が見える。

それは、少女だった。

わざわざ切るのが面倒だからという私と違って肩の辺りで自然に切り揃えられた髪の、元気そうな印象を受ける少女がそこに立っていた。

じっ、とその少女を見つめていると、その少女がなぜか少しずつ焦れているような空気を纏い始めた。

「……何か用か?」

私がそう言うと、その少女はようやく口を開いた。

「あなたの名前は?」

……おお、中々にいい声だ。私の好きな響きだな。

そんなことを思いながらも私はその少女に答えた。

「古鐘瑠璃だ。お前は?」

私にとっての普通の態度で返すと、少女は少しだけ不機嫌そうに顔を歪めた。

「……そんなんじゃ、友達できないよ?」

………別に構わないが、ここで少しだけ昔の記憶に思いを馳せる。

…………そういえば、私に友人と言えるような相手は片手で数えられる程度しか居なかったな。

「そうなのか?」

「わかってなかったの!?」

わかったとしても直す気は特に無いが。

「ああ」

と、それだけ答えておく。

するとその少女は「しょうがないなー」と小声で呟き、私と目を合わせてはっきりと言った。

「私は、春原白兎(はるはらはくと)って言うの」

それから、私に向けて手を伸ばす。

これは、一応知っている。

私もそれに合わせて手を伸ばし、白兎の手を軽く握った。

「これからよろしくねっ」

にっこりと笑いながら私に向けてそう言った白兎に、私は苦笑と共に言葉を返した。

「そうさせてもらおうか」






初めてその子の事を見たのは入学式の時。

男子はズボンで女子はスカートと規則正しく並んでいるなかで一人だけ、女の子なのにズボンをはいていながら堂々としたその姿に、私や私の周りは目を引き付けられていた。

その子はどちらかというとツリ目で、周りのことにほとんど興味を持っていないようだった。

私の視線や他の人からの視線も感じていると思うけど、それでもその子は真っ直ぐに立っていた。

その時から、私の中にあの子が入り込んできた。

ずっとあの子の事が頭から離れないで少しだけ寝不足になっちゃったけど、私はいつもと変わらないように家を出て、二回目になる学校に足を運んだ。

クラス分けであの子の名前を探そうとしたときに、ようやく私はあの子の名前すら知らないことに気が付いた。

私は少し落ち込んだけど、名前を知らないなら今から知ればいいと思い直して自分のクラスに行く。

だけど、いくら待ってもあの子は姿を見せなかった。

他のクラスも見てみたけど、あの子の姿はどこにもない。

諦めそうになったその時、教室の扉がカラカラと軽い音をたてて開き、私がずっと求めていた姿が現れた。

その子は周りの視線をものともせずに自分の席へと向かい、静かに椅子に座って本を読み始めた。

私はすぐにその子に近づいていったけれど、その子は気付いていないみたいで本に視線を落としたままだった。

私はそんなその子の顔を見つめ続けた。

一番に目につくのが目。澄んでいてどこまでも見通せそうなのに底が見えない真っ黒な瞳にはあまり感情が見えないけど、どこか吸い寄せられるような感じがする。

……あ、睫毛。…長いなぁ……。

じっ、と見つめていると、ようやく気がついたのかその子と目が合った。

その子は何も言わない。私も、何か言おうとしてるけど、言えない。ドキドキと大きくなっている心臓の音をできるだけ無視しようと頑張っても、その音はどんどんと大きくなっていく。

「……何か用か?」

それが、私と瑠璃が初めて出逢って交わした言葉だった。

この後の事はよく覚えていない。

ただ、頭の中のパニックを外に出さないようにしながらの会話をして、お互いに名前を教えあって、それから握手をしたことだけはちゃんと覚えてる。

その日から、私と瑠璃は友達になった。



  初恋の相手は同姓だった春原白兎の運命の出逢い。



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