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フルカネルリだ。四月に入り、新入生が入学し、私達も最高学年になった。年々階段を上がるのが面倒になってくるが、まあ、仕方無い。


……それにしても桜か。私には風流と言うものはわからないが、美しいものを美しいと思うことはまだできる。


ひらりと舞い落ちる桜の花弁を一つ、片手で掴み取る。

その手を目の前で開くと、わずかに歪んだ桜が風に吹かれて舞い上がった。


くるくると身を翻らせる花弁を目で追っていくと、散る前の五つの花弁を持った一つの花が目にはいる。


…………ああ、平穏というのも、良いものだ。


《……そうだよネー……平穏じゃなかったら落ち着いて研究もできないもんネー……》


ああ、実にその通りだ。だからこそ私は今までの世界で拠点作りを重要視したのだから。

……それのお陰でディオを育てて観察することもできた訳だし、周囲のことをあまり考えずに研究を進められたのだし。




研究に続く研究の日々。たまには脳を休める日があってもいいと思い、ゆっくりと一日を過ごすことにした。


揺り椅子に座り、膝に薄い毛布を掛け、眼鏡をかけて、研究とは一切関係の無い本を読んでいる。


《……なんだかフルカネルリがおばあさんみたいに見えるヨー》


…………ふぅ……いい風だ。そう思わないか? アザギ。


『……そう、ねぇ………よくわからないわぁ……』


……そうか。


きぃ、と木が軋む音を聞きながら、揺り椅子を揺らす。


……きぃ………きぃ………。


「……ふぅ…………」


……疲れてはいないが、眠くなってきたな。

昼寝は久し振りだが……まあ、良いだろう。


目を閉じて、呼吸をゆっくりと落ち着けていく。

ざわざわとした風の音と、草木が擦れる音。そして揺り椅子の軋む音がまるで子守唄のように、ゆるりゆるりと私を眠りの沼に引き込んでいく。

………お休み、アザギ。お休み、ナイア。


《……ん。お休ミー》

『……おやすみ、瑠璃……』






揺り椅子に揺られながら目を閉じたフルカネルリを見ると、どうしてかボクも少し眠くなってきた。

ボクには睡眠なんて娯楽以上の意味は無いものなのに、おかしいネー?


『……おかしいわねぇ………でも、私も眠くなってきたわぁ…………』


アザギはゆっくりとフルカネルリの周りを回りながら、フルカネルリと同じように目を閉じた。


『……飛ばされないように、固定しておいてくれないかしらぁ……?』

《そのくらいだったら別にいいヨー》


くるり、と指を回して椅子を作る。フルカネルリが座っている揺り椅子と同型のそれにアザギを座らせて、固定する。


『……ありがとぅ……ねぇ………』

《気にしないでいいヨー。ボクにとっては大したことじゃないからネー》


……それに、どうせボクも寝ちゃうからついでみたいなものだしネー。


それは言わずにボクもゆらりと浮かんで目を閉じる。木陰でこうして眠ってみるのもいいね。平和で。


人間は生き急ぐ。寿命があまりにも短いからそれも仕方ないけれど、その姿はある意味では少し羨ましかったりもする。

ボクたちみたいな寿命が無いに等しい存在は、そうして生き急ぐ気持ちがわからないから。


ボクたちが死ぬ原因は、だいたい子供を作って寿命があるレベルや死んだらちゃんと死ぬような力まで落ちること。それを望んで子供を作ろうとする馬鹿もいるし。


……ちなみに、子供を作ったからって確実に死んだらちゃんと死ぬくらいまで力が落ちるかと言われればそれは違う。子供を作ってもまだまだ寿命がないようなやつも普通にいるし、むしろ強くなるようなやつもいる。


理由? そんなのは知らないサー。ボクにはまだまだ早いことだシー。


ゆっくりと深呼吸。別にする必要も意味もないけれど、やっておく。


…………いい天気だナー……。




  たまにはのんびり。






ふと目が覚めると、私の周りには沢山の動物が集まっていた。


例えば鳩。そして猫に犬。なぜか喧嘩をすることもなければ食い合うこともしていない。


その他にもネズミが居るし、虫もいる。蝙蝠も居れば白兎も居る。


《……白兎ちゃんは動物カウントなノー?》


人間は動物だ。間違いない。この場で動物でないのは、草木とアザギとナイアくらいなものだ。


《確かにネー》



 

もうすぐ異世界です

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