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フルカネルリだ。今年はスキーに行くことにした。久し振りに氷雨と話をして変わったことが無いか聞いておきたいしな。例えば地球温暖化で辛くないか、とか。
《……辛いと思うヨー。なんか作っていってあげたラー?》
それもいいな。魔力はあることだし、電池式にして冷却魔法もしくは凍結魔法の術式でも渡してやるか。
……出来た。作成時間二秒。
《速くなったネー》
『……始めはぁ……何時間も、かかってたのにねぇ………?』
そうだな。これも成長加速の恩恵の一つだろう。
いつものスキー場に到着。早速滑りにいくことにする。術式を渡すのは、二十五キロコースを三回滑り終わってからでいいだろう。
《七十キロも滑ってたら日が暮れちゃうと思うヨー?》
リフトを使わず転移する。そしてスキー板を魔力で被って滑りやすくして加速する。減速にも魔力を使ってやれば問題ない。
《……問題だらけだと思うのはボクだけかナー?》
『……わたしも、問題だと思うわよぉ………?』
そうでもない。ばれなければ。
……さて、行くか。
ひゅん!と空間が曲がったと思えば、私は山の頂上近くの一番長いコースの出発点に立っていた。
板をつけてストックを持って、ゴーグルをつけて。
さて、出発だ。
三周終わったところで氷雨に会いに行く。術式はしっかりと持っているし、魔力電池(仮)も丸二年分は用意してある。
まあ、必要ないと言われてしまえばそれまでなんだがな。
《多分必要だと思うけどネー?》
そうか。
「それで、実際のところはどうなんだ?」
『きついです。夏とか本当に暑くなってきてます。比喩じゃなくって溶けちゃいそうです』
そうかそうか。雪女も大変なのだな。
『昔は頂上近くの洞窟にいれば夏でも平気だったんですけどね……はぁ……』
「そんな氷雨には私の作った冷却術式をやろう。魔力でも妖力でも効果があるように調整してあるし、冬の寒い間に妖力を込めて夏に使えるように電池のようなものも用意した。試作品だから使って感想を聞かせてくれればそのまま使ってくれても返してくれても構わん」
『ありがたく使わせていただきます』
……美しい土下座とはこういう物の事を言うのだろうな。正座の形と言い腰の角度と言い背中から首にかけてのラインと言い、素晴らしい。
《……土下座誉めてもネー………》
『ありがとうございます!』
《喜んじゃったよこの子。駄目だもう早くなんとかしてあげないトー……》
『……無理だと思うけどねぇ………?』
洗脳でもすれば変わると思うがな。
《外道な発言が来ター!?》
『……そんな外道でもないじゃなぃ……ナイアは、大袈裟ねぇ……』
全くだ。
《ボクがおかしいノー!? そんなことないよネー!?》
夏の間、私は洞窟の中で直射日光を避けながらひっそりと過ごしている。
日光は熱いから嫌い。夏は暑いから嫌い。クトさんは熱かったり冷たかったりしてよくわからないけれど、クトゥグアさんは暑苦しいから嫌い。
本当のところ、暑いと私は溶ける。文字通り溶けて水になる。それに、全部溶けたら元に戻れない。だから暑いのは嫌い。
けれど最近は私の夏の間の住処である洞窟の中の氷が溶け始めるという事態になり、私が服に妖気を通して温度を下げるということをしているのだが……年々暑くなって行く今の状況のままでは、いつか私が消えてしまうだろう。
それでも妖気を使わなければ緩やかな消滅の危機であるため、使わないわけにも行かずにただ自らの身を削ってわずかな時間を永らえるだけだった。
それが、今ではどうだ。
洞窟内は夏だというのにキンキンに冷えていて、岩から染み出す水滴は滴る前に凍り付く。
私は冷気に体を浸し、ここ毎年消費し続けていた分の妖力を回復していた。
「……はぁ…………極楽、極楽……」
……まるで年寄りが温泉に浸かった時のようだって? 五月蝿いよ。実際極楽なんだ。
考えてみればわかるだろうけど、私にとって氷を溶かす温度の空気というのは、人間で言えば砂漠の太陽に直接焼かれているにも等しいこと。
そんな状態から自分にとって最高な状態になれば、こうしてだらけてしまうのも仕方ないだろう。
…………はぁ……♪
九死に一生を得た氷雨。