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異世界編 2-86

 

ナギ殿との新婚旅行十日目。島から出て周囲を囲む大陸を見て回っていたのだが、懐かしいものを見つけて立ち止まった。


「? どうしたんですか?」


ナギ殿が私を見上げて問いかけてくる。


「なに、少し懐かしいものを見つけてな」


私はナギ殿にそう返し、見付けたそれに近付いていく。

もしかしたら違うかもしれないが、なんとなく私はその予感と懐かしさが正しいものだと感じていた。


私が見付けたそれは、銀の匙を看板に掲げた‘宿屋’だった。

少しばかり見慣れない金の針も付いていたが、恐らくそれが‘彼女’の友人が掲げていた酒場のシンボルなのだろう。確かに‘彼女’が言っていたそれに該当する。


真新しい木製の扉を開くと、そこには数人の客と店主らしい女性が一人。髪は短く肌は浅黒い、つり上がった目をしているその女性は、‘彼女’に聞いた友人の特徴に完全に当てはまっていた。


「いらっしゃい。こんな真っ昼間から女連れで酒を飲みに来るたぁ、あんたは相当暇人だね。まあ、ゆっくりしていきなよお二人さ」


ゴヅンッ!と鈍い音がして店主の頭がカウンターに叩き付けられた。どうやら後ろから殴られたらしく、店主は後頭部を押さえたまま声もでない様子で悶絶していた。


「ザリチェ。あなたは何を馬鹿なことを言っているんですか。お客様に失礼でしょう?」


‘彼女’はそう言っているが、恐らく店主はそれを聞ける状態には無いだろう。あれは痛い。

私はくつくつと笑いながら、久し振りに見る‘彼女’に声をかける。


「まあまあ、そう言わないでやってくれ。私達は気にしないからな。タルウィさん」


そう言うと、‘彼女’……タルウィさんはバッと私の方に振り向いた。


「……久し振りだ、タルウィさん。まさかこの大陸に来ていたとは少ししか思っていなかったぞ?」

「……いらっしゃいませ………私も、もう一度お会いできるとは……少ししか思っておりませんでしたよ。ディオさん」


タルウィさんは、そう言ってにっこりと笑った。




「……さて、一応紹介しておこう。こちらはタルウィさん。昔にランドリートで宿屋をやっていて、一時期お世話になっていた」

「タルウィ=ゾロアスターです。宿屋‘銀の匙’の主人をしております。以後、お見知りおきを」


そう言ってタルウィさんはぺこりと頭を下げた。その後ろで酒場の店主がにやにやと笑っているのはご愛嬌と言うものだろう。


「そしてこっちは、ナギ殿。これでも十八で、私の妻だ」

「えぇっ!?」

「なんだってぇ!? それで十八!? いくらなんでも若すぎだろう!!?」


二人とも……と言うか、この場に居た全員が驚愕の目をナギ殿に向けている。まあ確かに、これで十八には見えないな。私も年を聞くまでは十四~五だとばかり思っていたし。


「どうすりゃそんな風に若さを保てるんだい? と言うか何を食べて生きてきたんだい? お姉さんに教え」


ゴヅンッ!


「ザリチェ。彼女はお客様です。困らせるのはやめなさい」

「い、いえ!私は大丈夫ですから……」

「おぉぅ……タルウィの拳骨は痛い……」


……仲が良いな。お前も混ざってきたらどうだ? ウルシフィ。


『ははは。やめておくよ。なんとなくだけどこの二人からは妙な気配を感じるからね。まあ、どう見てもただの人間のはずなんだけど、用心に越したことはないからね。もしかしたらディオさんみたいに私よりも強いなにかと契約してる可能性もあるし、もしかしたら私でも気付けないくらいに上手な魔法で人間のふりをしてるのかもしれないし。でもたぶん平気なんだよね。だってここはフルリさんの支配する大陸だから、きっとね』


そうか。

……まあ、母さんの大陸だから安心と言うのはおよそ間違ってはいないのだろう。ただ少し違うのは、母さんがどうにもできなかった場合は私達にどうこうできるわけが無いということでもあるし、その場合は諦めるしかないと言うところだな。


そう考えながらもタルウィさんと酒場の店主、そしてナギ殿を見る。実に楽しそうで、何よりだ。

それと、酒場の店主の名前はザリチェ=ハイカと言うらしい。ナギ殿が


「ゾロアスターとハイカ……拝火? 確かそんな宗教があったような……」


と言っていたが、恐らく関係はないだろう。


…………渇きと毒草の邪神だったか?


『知ってるのはなんで? って聞きたいところなんだけど、多分またフルリさんなんだろう? フルリさんは本当に何でも知ってるよね。正確には何でもじゃないかもしれないけど、私たちが知りたいと思っている時に知りたいことを知っているんだったらそれはきっと何でも知っているのとおんなじことだと思うんだけど、ディオさんはどう思う?』


まあ、知っている理由については正解だ。

それと、私の場合はそれ以前に、原因が母さんなら死者が生き返ろうが神が死のうが朝起きたら世界中で挨拶が『ヒャッハーー!!』になっていようが納得するぞ? 受け入れるかどうかは別だが。


『……それはそれでどうなのかなぁ……?』


珍しく短く終わらせたウルシフィの言葉を無視して、タルウィさんが用意したものであろう台帳に名前を書く。


……タルウィさんの料理は久し振りだな。





  ナギにライバル出現? いいえ、むしろ心から祝福してくれます。



 

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