異世界編 2-84
ディオさんとの新婚旅行一日目。ゆっくりしてもあちらとこちらの時間の流れは相当違い、一月後でも一日程度しか変わらないとフルリさんに聞いたのでゆっくりとこの大陸中を回ることにしました。
それに、今更ですが私の体の成長は元の世界の時間軸と同じように成長して行くらしいので、その辺りも安心です。
ちなみにディオさんと私は……まあ、『婚前交渉』をして繋がりましたが、それ以外にもフルリさんの作った術式でディオさんとウルシフィをこの世界から離しても消えないようにと、私と二人を魔力の経路で繋げてしまいました。
この経路はどこまでも伸び、物体も魔法もすり抜けてディオさんとウルシフィに私の魔力を送るものらしいんですが………繋げたあとにフルリさんにこっそりと、繋げないでも普通に活動可能だが、ナギとしては思い人と繋がっていた方が嬉しいだろう? と言われてしまいました。
……なんとなくディオさんとウルシフィに申し訳無いような気分になりましたが、嬉しかったです。
こうして準備を終わらせた私達は、まずはフルリさんの実験場とも言うべきこの島を見て回ることにしました。
その際、フルリさんに葉っぱの形の首飾りをもらいましたが、なんでもこれは通行手形のようなものだとか。
これを持っていれば島の中で殺されるほどは襲われないし、子供達がじゃれついてくる可能性があるが、ディオさんと一緒なら問題ないそうです。
……でも、殺されない程度なら襲われることもあるそうです。怖いですね。
「怖そうには見えないぞ?」
「怖がってばっかりじゃあ、せっかくの旅行を楽しめませんから」
「……そこまではしゃぐことか? 今までと何ら変わらないだろうに」
変わりますよ? 絶対に倒さなくっちゃいけない相手もいませんし、殺される心配もありません。精神的な充実感が違います。
始めに行ったのは赤い樹の森。炎の力を強く持つ結晶の獣達が住む場所だと聞きましたが、どうやら本当のようです。
何故かと言うと、炎以外の精霊の気配が全くといっていいほどありませんし、唯一普通に存在している炎の精霊達はそれこそカルシフェルのいた火口に匹敵するほどの密度をもって存在しているからです。
……こういうところなら、確かに炎の属性を持っていないと入れませんよね。怖くって。
そう思いながらも私は周囲の綺麗な森に感動していた。
まるでルビーを削り出して作ったかのような、真紅の結晶。
葉も赤く、幹も枝も紅く、透き通っているのに、向こう側を見通すことができない、不思議な樹。
「この島の樹は全て純粋な魔力の結晶だ。ゆえに、この樹の枝の一本分のを大陸の外で解放すれば、それこそ半径数十キルメルトが蒸発するだろう。海上ならばなおさら広くなるだろうな」
「へぇ……凄い樹なんですね……」
私はディオさんに説明を受けたばかりの樹の幹を撫でてみる。すると私に返ってきた感触は、見た目とは大幅に違う普通の樹の感触だった。
「……ちなみに、ナギ殿が触れているその樹を含めた全ての結晶樹は、母さんがまだ未熟だった頃に溢れ出した魔力のせいでそうなっているらしい。現在でも母さんがたまに魔力を与えているらしい。家の近くに生えていた巨大な樹を通してな」
…………それってつまり、一枝分が術式を通さないで暴走しただけで半径数十キロが消し飛ぶような魔力を持っている樹の……千本? 万本? ……とにかく、それだけの魔力をフルリさんはあの小さな体に持っているってことですよね?
それも、私の知っている限りの六種類の属性を使えるし、私の知らないもうひとつの属性も。
「そうなるな。確か無属性といっていたか。どの属性の術式でも動かすことができ、さらに簡単に異なる属性同士を混ぜ合わせることができるらしいが……代わりに効率は多少悪くなるそうだ」
いえ、それくらいなら十分に凄いです。多分フルリさんやディオさんの言う多少はほんとに少しだけでしょうし。
それから私達は炎の……と言うか、赤の結晶獣の長であるらしい、狼とドラゴンを混ぜて二で割った後に牙を付け足したような姿の赤牙さんの所で一夜を過ごすことになった。
ディオさんはどうやらこの島の七色の結晶獣の長と顔見知りであるらしく、特に警戒したような感じはしなかった。
……私だったら、どうしても少しは警戒しちゃいそうな気がしますけれど……。
「そんな時には母さんのことを思い出せ」
「フルリさんのことですか?」
なんででしょうか?
「簡単な話だ。………母さんも襲ってくるか来ないかわからない上に確実にこの島の頂点に立っているんだぞ? どちらが怖い?」
少し考えてから、先ほど視線を外した赤牙さんを見てみる。……うん、やっぱりまだ少し怖い。
そこで、フルリさんがにっこりと笑いながら私とディオさんを魔法をガトリングガンのように連射しながら追いかけてくるところを……ひぃっ!? 想像だけでも怖すぎます!!
ディオさんに撫でてもらって落ち着いてから、もう一度赤牙さんを見てみる。
…………あれ? ぜんっぜん怖くないです。むしろ可愛らしくすら見えてきました。
「可愛いものだろう?」
ディオさんのその問いに、私は出来る限りの笑顔で答えます。
「はい。可愛いものですね」
どれ程フルカネルリが恐れられているかと言う話。