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異世界編 2-81

 

しばらく空中で待機していると、いきなり目の前に大きな緑色のドラゴンが出てきた。どこから出てきたのかは知らないけど、戦う気なら……


『おかえりなさいませ、御子息殿。いらっしゃいませ、お客人。私、この大陸にて風を司る結晶の竜、緑翼と申します。この度は主の命により、お三方のお迎えに参上つかまつりました』


…………流石フルリさん。まさか喋るドラゴンをただの迎えに寄越すなんて……私の想像の遥か上をいっています。

……まあこれも、


「「『母さん(フルリさん)だし、仕方無い』」」


んでしょうね。きっと。

……いつまでも待たせるわけにはいきませんし、早く行きましょうか。

私達の目の前で、どうやっているのか羽ばたきすらせずに宙に止まっている緑色のドラゴンの背中に乗ってみる。


「……ナギ殿……意外と命知らずだな……」

「へ?」


何ででしょうか?


「……ナギ殿が今またがっているそのワイバーンだが………前に言った、大陸中どこに逃げても正確に雷を落としてくる化物だ」

「……へ?」


…………マジデスカ?


恐る恐るとエメラルドを鱗として張り付けたようなドラゴンを見てみると、無言で肯定された。表情はわかりませんが、雰囲気と視線で少しはわかります。


「まあ、今回は母さんに言われて来たのだから、乗ることが前提だろうがな。ほらナギ殿、呆けてないでもう少し前に詰めてくれ」

「怒りますよ? 本気で怒りますよ? 私いま本気で死を覚悟したんですよ? 全力で怒りますよ? と言うかもうキレますよ? そして最後に泣きますよ? 年齢とか関係なしに幼子のように泣きますよ?」

「……そこまでか。すまんな」


そう言ってディオさんは私の頭を撫でる。それだけで機嫌が直ってしまう私は、きっともう手遅れなんだろう。

けれどそれが少しだけ悔しくて、私はディオさんの胸に後頭部を当てながら無言を貫く。

……とは言っても、ディオさんには機嫌が直ったとバレているのかもしれないけれど。


『……出発してもよろしいですか?』

『良いんじゃないかな? でもね? ここは空気を読んでもう少し見守ってあげるか、せめて何も言わずにゆっくりと運んでいってあげるのが正解だと思うよ? あとついでに、私は入っていいのかな? 私としては本体は入れなくってもいいけど分霊くらいは入れたいんだよね。結界の外には情報を出さないからさ。駄目かな?』

『……外に出したら、この世界が消滅する事を理解した上で、本体の通過を許可されております』


ウルシフィと緑のドラゴンの話し合いから、この場には私とディオさんだけじゃないことを思い出した。

と言うか、ウルシフィは今までも居たんだった。私達がこうやっているといつの間にか影が薄くなるから忘れてました。


…………ああ、もう。穴があったら入って埋まりたいです。






家の近くの家庭農園(広い。具体的にはランドリートの王宮の総面積よりも広い)の端に降りる。ここまでの景色を見てナギ殿の目がきらきらと輝いている。

……む、あそこにいるのは……プロト姉さんか。

近付くと、私の方を向くことなくいきなり話しかけてきた。


「お帰り、ディオ。母さんからディオが帰ってくるって聞いてから、ハヴィラックが焦れて焦れて仕方がないから顔見せに行ってあげて?」

「ただいま、プロト姉さん。……ハヴィ姉さんは相変わらず?」

「そうだね。相変わらず……と言うか、少しレベルアップしてるかな。私じゃあ止められないから、たっぷりと愛でられてくるといい」


……私の頬はひくついていないだろうか? ハヴィ姉さんの過保護にはあれ以上があったとは……信じたくない新事実だ。

けれども母さんに呼ばれているので行かないという選択肢がとれるはずもなく、私はナギ殿とウルシフィを連れて母さんの待っているだろう実家に歩を進めるのだった。




「ただむぐっ!」

「お帰りディオ。怪我は無いかい? 風邪は引いてないね? 私が誰だか解るよな?」

「……ハヴィ姉さん。いきなり抱き締められては呼吸ができません」

「ああすまない。どうもディオの事が心配でね」


ああ、やはりこの美しく有能だが残念な姉は変わっていなかったか。プロト姉さんの言った通りにむしろレベルアップしている。


「さあ、お母さんが待っているよ。早く……おや?」


どうやらハヴィ姉さんは今の今までナギ殿に気が付いていなかったようで、ようやくナギ殿に視線を向けた。


「……ああ、成程。貴女がディオの……いらっしゃいませ、お客人。歓迎いたしますよ………そちらの精霊殿も……」


ハヴィ姉さんは恐らく……恐らく!笑顔を向けているつもりなのだろう。だがその目は完全に笑っておらず、どう好意的に見ても恐怖の感情しか湧き上がってこない。


……そういえば母さんが昔話してくれたな。笑顔とは元々攻撃的なものであり、大元は獣が獲物に向かって牙を剥く行為であったと。

その時は半信半疑だったが、直後に母さんが見せてくれた殺意混じりの笑顔に、それが本当のことだと理解した。

何せ無表情だったら耐えられた殺気が、強さは増していない筈なのだが笑顔になるにつれて強くなっていったような錯覚に陥ったのだから。


今のハヴィ姉さんの笑顔もそうだ。明らかに攻撃的なものがあり、歓迎している雰囲気ではない。

ナギ殿が私の背に隠れて震えているが、私にもハヴィ姉さんはどうにもできない。ハヴィ姉さんを力尽くで抑えられるのは―――


ガヅンッ!!!


「―――――ッ!?」

「……ハヴィラック。お前は何をしているんだ」


―――そう。母さん一人だけだ。

……見守の神は、どうなのだろうか?


《こらこら、無理を言わないでくだしゃい》


……無理であるらしい。





  帰還早々理不尽に相対したディオとナギ。




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