六十万アクセス記念外伝
これは昔々の話。まだまだナイアが幼くて、あんまり物事を深く考えなかった頃の話。
必要はないけど何となく眠かったから眠って、起きてみたら目の前にショゴスさんが座っていた。
「てけり・り?」
「……こんなところでなにやってるんですかショゴスさん」
「てけり。どうぞ私の事はショゴスと呼び捨ててくださいませ」
くりっ? と首をかしげたショゴスさんが可愛いのは知ってますから、何でここに居るのか早く教えてください。
そう思っていると、ショゴスさんはなにやら手紙を出して、ボクに渡してきた。一体なんなんだろうネー?
開けてみると、そこには先生の文字でこう書かれていた。
『ショゴスがどうしてもお前に紅茶を振る舞いたいと言って聞かないから、悪いが付き合ってやってくれ。嫌なら嫌と言えば良いが、ショゴスの涙目は高威力だから気を付けろ』
……ショゴスさんをもう一度見てみると、いつものクラシカルなメイド服を着て、カチューシャをつけたままにっこりと笑っていた。
…………はぁ。
……まあ、とにかく。
「寝起きに一杯、紅茶を貰えるかナー?」
「てけり。お望みのままに」
にっこりと笑ったまま、ショゴスさんはボクに紅茶の入ったカップを手渡してくれた。
……ん。美味しいネー。
「てけり。ありがとうございます」
学校は無いので、のんびりできる。ショゴスさんに淹れてもらった紅茶を飲みながら、何となく一息ついた。
「ショゴスさん。なにかお話しなイー?」
「てけり。なんなりと」
ショゴスさんはそう言って、ボクの斜め後ろから正面に移動する。
「……ショゴスさん。座ってヨー」
「……てけり。それでは、失礼いたします」
昔は何を言っても座ろうとしなかったけれど、ボクが先生のところに行く度にそれを要求していたら、なんとか座ってくれるようになった。
ショゴスさんは奉仕種族で、奉仕種族が主や主の招いた客人と同じところに座るのは許されないと良く言っていたけれど、ボクは結構わがままなんだヨー?
「最近の先生はどウー? やっぱり時間に囚われない悠々自適な生活をしてるノー?」
「てけり。その通りです。あのお方は学校のある日と無い日の差が激しすぎるのです」
「まあ、先生だってそんなことはあるサー。生きてるんだしネー」
そう言いながら紅茶を飲む。形だけショゴスの前にも置いてあるが、ショゴスはそれには一切手をつけようとはしない。これも奉仕種族の誇りの一つなんだとか。大変だネー?
それからボクは聞き役に回り、ショゴスさんからのちょっとした日常の不満やその他のことを色々聞いていた。
ただ、先生の愚痴を言うときには必ずと言っていいほどショゴスさんの口調は柔らかくなる。
……やっぱり、ショゴスさんは先生のことが大好きなんだネー。見ててわかるヨー。
「……ふふふフー。とりあえず、先生とショゴスさんは仲が良いって事はわかったヨー。色々言いながら嬉しそうにしてたしネー」
「……てけりり? 嬉しそう……でしたか?」
ショゴスさんは自分がさっきまでどんな顔をしてたのかわかってないみたいだ。すっごく楽しそうな、嬉しそうな顔をしてたヨー。
不思議そうな顔をしながら自分のほっぺを引っ張っているショゴスさんにはそれを言わずに、ただ可愛いショゴスさんの仕草を見ていた。
「……そうそう、紅茶のおかわりをくれないかナー?」
「てけり。どうぞ」
こぽぽぽ……と小さな音をたてて、真っ赤な色をした液体がボクの持つカップに注がれた。
すぐには飲まずに香りを楽しむ。ショゴスさんはやっぱり紅茶を淹れるのが抜群にうまい。いい色が出てるし、香りも味もボクが淹れたそれよりずっといい。
……葉の差についてはこの際無視する。どうせおんなじ葉っぱでも勝てる気しないしネー。
「ンー、やっぱり美味しいナー」
「てけり。感謝の極み」
こうしてボクとショゴスさんは、ゆっくりのんびりと話をしながら紅茶を飲んでいった。