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異世界編 2-76

 

ディオさんが叩き割った湖の底に居た水の精霊王。なぜかウルシフィの声にも返答しなかった彼女は、呼び出しにいったウルシフィと一緒に現れた。


『……ん……もう食べりゃれまへんよぉ……えへへぇ………♪』


ただし、眠りながら。


水の精霊王ともあろうものが、こんな昼間から涎を垂らし、羽衣のような服を着崩してお腹を出したまま眠っているなんて………。


『マルシファーだからね。仕方ないんじゃないかな? 何て言ったってマルシファーだしね。でも、結構大声で呼び掛けたんだし、起きて来てもおかしくはないはずなんだけどね? 全くもう、またお腹出しっぱなしで寝ちゃって。風邪引いても知らないよ? 引くかどうか知らないけど、こういうのは様式美だし一応言っておくよ。ほら、起きなってマルシファー、アリバっさんに言われただろう? 異世界からの救世主を呼ばせたから力を貸してやれってさ。おーい』

『……んぅ……あと……二年……』

『待てないからね? 二年って確かに私達にとっては五分くらいなものだけど、人間には結構長いからね? そしてあんまりふざけたことばっかり言ってるといくら私でも怒るよ? おしりペンペンするよ?』

『……おしりペンペンはいやぁ……わかった、起きる……』


……ウルシフィって、もしかして結構精霊王達の中ではお姉さん的存在だったりするんでしょうか? カルシフェルはウルシフィに頭が上がらないようでしたし、水の精霊王は明らかに子供扱いされてますし。

ディオさんも同じような印象を抱いたらしく、ウルシフィと水の精霊王の掛け合いを無言で見つめています。


『ほら、ちゃんと服着て。マルシファーは女の子なんだからちゃんとしないとダメだよ? カルシフェルみたいに大雑把にやってると威厳がなくなっちゃうからね。それに今日は初対面の人とお話しするんだから、失礼の無いように敬語を使うんだよ? 敬語っていってもそれらしく聞こえればいいから、こうすれば丁寧なんじゃないかな? 程度でいいから』

『う……はい、わかりました……』


……それって、その本人達の目の前で言っていいことなんでしょうか?と言うか、なんでしょうこのそこはかとない‘ダメな子’オーラは?


「……母さんが昔会った時には、この湖で釣りを始めて十五秒で釣り上げられるほどの‘お馬鹿’だそうだぞ」

「……ああ、そうですか。‘お馬鹿’なら仕方無いですね」


うん、こういう憎めない馬鹿な子は嫌いじゃないです。むしろかわいいとすら思いますね。




ウルシフィにかいがいしく世話を焼かれてようやくちゃんとした水の精霊王は、さっきまでの緩みきった雰囲気を帳消しにするようなしっかりとした雰囲気で自己紹介を始めた。


『初めまして、私がこの世界のすべての水を治める水の精霊王、マルシファーです。あなた方の事は先程ウルシフィから聞きました………が、眠くてよく聞いていなかったので自己紹介をお願いします』


と、思ったらしっかりしてるのは最初だけで、最後はもう駄目だった。この世界の精霊王って、こんなに残念な性格をしているんですね。ウルシフィしかり、カルシフェルしかり。


「ディオだ。こっちの娘はナギ殿」


そんなことを考えていたら、ディオさんが私の事も含めて自己紹介をしてくれました。


『はい、ディオさんとナギ殿ですね?』

「なんでディオさんはディオ‘さん’なのに、私はナギ‘殿’で固定なんですか? ウルシフィもそうですしカルシフェルも……」


すると水の精霊王はにっこりと笑って言いました。


『その方が何となく収まりがいいような気がするからです。他意はありません』


……あ、そうですか。






しばらく私とナギ殿、そしてウルシフィはこの湖の周辺で生活する事になった。理由は当然、ナギ殿と水の精霊王の契約の際の口付けの回避のためだ。

……そう思っていたのだが、ナギ殿が湖から汲んだ水を飲んだ後になってすぐ、水の精霊王から契約完了と言うメッセージが届いた。


…………確かに、水の精霊王はこの世界のすべての水と繋がっているのだから、水を飲めばキスをしたも同然だな。むしろそれ以上かもしれない。それでもしばらく私達はこの場所で過ごすつもりでいた。なぜなら、ナギ殿はこの世界に来てからずっと気を張っていただろうから、ここで少し休憩を入れようと言う話になったからだ。


「……ふぅ…………いい景色ですね……」

「……ふむ。私としては、母さんたちと一緒に住んでいた島の景色の方が好きだがな」

「……なら、魔王を殺した後にでも、見に行っていいですか?」

「その時になったなら、案内は任せろ」


くすくすと笑うナギ殿に、私も軽く笑顔を返す。その時が楽しみだ。


「……これで、死ねない理由が増えましたね?」

「……元々死ぬ気は欠片も無かったがな」


ひゅう、と、私とナギ殿に湖からのひんやりとした涼風が吹き付ける。ナギ殿の髪が私の方に流され、私は反射的にナギ殿の髪を優しく掴み取る。


「あ……」


ナギ殿は少し恥ずかしそうにしていたが、私の手から髪を奪い返そうとはせず、私の好きなようにさせていた。





  どこかのラブコメみたいなことを無自覚でやっているディオとナギの休暇。






『うん、仲が良いのは良いことだと思うよ? ちょっと寂しかったりもするけれど、私は空気を読めないわけではないからね。むしろいつもは読んだ上でぶち壊している私だけれど、流石に今のディオさんとナギ殿の間に流れてる空気を壊したいとは思ってないし、思わないからね。だって、二人は私の大切な御主人様だからね。ペットはペットらしく、引くところでは引かないと。ちゃんと愛されてるとは思ってるし、問題ないよ』

『……ウルシフィ? 泣いてますよ?』

『…………うるさいよ、マルシファー』




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