異世界編 2-74
風の大陸に到着。今回は船を使っていないので、面倒な審査などはすべて無視した。本来なら不法入国となるのだが、なに、ばれなければ問題無い。
「問題だと思います」
『大丈夫だよ。もしばれたとしても、ディオさんとナギ殿を捕まえられる人間がこの世界に居るわけがないさ。安心していいよ』
「……フルリさんは?」
『私はフルリさんを人間とは認めない。フルリさんは絶対人外だって思っているし、多分これからも思い続けるよ』
…………まあ、あながち間違ってはいないのだろうが……知られたら何をされるかわからんぞ?
飛行可能になってから、ずいぶんと一日の移動距離が伸びた。それによって探し物も楽になったし、戦闘もすぐに終わるようになった。何より索敵に一番役に立っている。
高度を上げれば地上にいる魔物の群れを発見しやすくなるし、食事に鳥肉が入ることも多くなった。
逆に見つかりやすくもなったのだが、高度を二百メルトまで上げてやれば届く魔物はほとんど居ないし、鳥型の魔物は進行方向と速度さえわかってしまえばその先に剣を置くなり魔術を打ち込むなりしてやればけりがつくので扱いやすい。
「この世界で焼き鳥が食べられるなんて思ってませんでした」
「そうか。まあ、味わって食べるんだな」
「勿論です」
ナギ殿は嬉しそうな表情で、塩を多めに振られた焼き鳥を頬張っている。私も昔似たようなものを食べたことがあるが、ナギ殿のいた世界にも似たようなものがあったのだろう。
ふわふわと浮きながらの昼食だが、以外となんとかなるものだ。風を抑えるのはある程度で十分だし、焼き鳥を作るための火の魔術も弱火で構わないので問題無い。あとは私とナギ殿が自分の体を浮遊させて場所を固定するだけでいい。
……ちなみに、なかなかにいい修行になる。同時に体内で魔力を回すのもやるとさらに効果的だ。これなら私が生きているうちに母さんと同じ‘魔法使い’の高みまで登ることができるかもしれん。
『……たぶんだけど、ディオさんならもうできると思うよ? フルリさんにもらった力がなにかは知らないけど、少なくとも私達精霊王と同格かそれより高い力を持った存在との契約なのは確定だしね』
「そうなのか?」
どれ、試してみるか。
炎の魔術を消し、自分の魔力のみで術式を組んで行く。
普通に精霊に渡すよりも苦労はするが、かなり使用する魔力は削減されている。
『ああ、そこはあんまり厚くしすぎると詰まって暴発することがあるからもうちょっと薄くした方がいいと思うよ。魔力の固め方や操り方は、もうほとんど文句はないね。ただ、慣れてないせいだと思うけど、ちょっとゆっくりすぎるね。もう少し早くしないと実戦では使えないし、空間に固定するんじゃなくて、自分の前に固定するようにしないと移動できなくなるよ? フルリさんは一瞬で組み上げて空間に固定して地雷式にして使ってるけど、ディオさんはまだ無理だろう?』
……むう。難しいな。とりあえず練習あるのみだ。
ディオさんが新しく魔法に挑戦しているそうです。
この世界では精霊に魔力を渡せば、少し多目に魔力をとられますがかわりに術式を組んでくれて、そこに術者が魔力を流し込んで術を発動するのが人間の一般的な方法なのですが、魔力の扱いに長けている人は、精霊に組んでもらうのではなく自分で自由に術式を組むことができるのだそうです。
フルリさんは当然のように自分で術式を組んでいるそうですが、ディオさんは今まで努力はしてきましたが、できなかったそうです。
けれど、あの時フルリさんを仲介して誰かとの契約をしたら、何となくですがわかるようになったらしく………ウルシフィに教えてもらいながら、黙々と術式を組み続けています。
…………むぅ。少しウルシフィに嫉妬します。私だってディオさんに頼られるようになりたいです。今の状態では、何一つディオさんから頼られる所がありませんし。
……もっと頑張りましょう。そしていつか、ディオさんの後ろで護られるだけじゃなくって、背中を任せてもらえるようになろう。
ファイト、私っ!
頑張ろうと決意したナギの話。空中浮遊したとある日のこと。