異世界編 2-71
『ういっす!俺様がこのツェセム火山の主、炎の精霊王のカルシフェルだ!アリバシーヤの旦那にも言われてるし、さっさとそこの娘っ子と契約しなきゃなんねえんだが、その前にちっと戦うぜぇ!なぜならいくらアリバシーヤの旦那の命令でも、俺程度を倒せないような奴があの魔王を倒せるとは思えねぇからな!』
『やかましいんだよこの超弩級熱血馬鹿。少しはその喧しい口を閉じて鼻で呼吸することを覚えた方がいいと思うんだけどね? まあ、虫程度の知能しかない熱血吐瀉物なんかがそんなことを覚えて、あまつさえ実行なんてして見せたらこの世界が丸ごと滅んでもおかしくないからこっちからお断りだけどね。でもちょっとくらいこの声を小さくすることくらいはできると思ってるんだけど? いくらお前が馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿でこの上ない馬鹿で比較するものが見つからないほど馬鹿であり得ないほど馬鹿で並び立つものがないほど馬鹿で極限の馬鹿であまりの馬鹿さと熱苦しさに名前が熱血馬鹿ルシフェルになるほど馬鹿でこの世界全てでもっとも馬鹿である熱血馬鹿ルシフェルでも』
『俺様そんな風に言われてたの!?』
『そんなことにも気付かないから熱血馬鹿ルシフェルは熱血馬鹿ルシフェルと呼ばれるんだと言うことにすら気付けないんだねこの熱血馬鹿ルシフェルは。全く実に馬鹿な熱血馬鹿ルシフェルだね、もはや尊敬に値するわけないだろこの熱血馬鹿ルシフェル。頭がない訳じゃないんだから少しは使ってみなよ熱血馬鹿ルシフェル。使われない頭なんて鳴らない鐘より無意味だってことくらいはいくら熱血馬鹿ルシフェルと呼ばれる熱血馬鹿ルシフェルでもわかるはずなんだけど、熱血馬鹿ルシフェルはもしかしてわかっていないのかい熱血馬鹿ルシフェル。さてここで問題です、私はこの二回の二重鍵括弧内で何度‘熱血馬鹿ルシフェル’と言ったでしょうか?』
私がそう言うと熱血馬鹿ルシフェルは考え込み始めた。こうやってはぐらかされるから熱血馬鹿ルシフェルは熱血馬鹿ルシフェルを脱出できないんだよこの熱血馬鹿ルシフェル。
「元気だったろう? 私が殴りたくなるのも仕方ないことだと思わないか?」
『思うよ。すっごく元気でもう元気すぎてイライラしたね。こんな奴が同族だと思うとなんだか……自分がこんなところまで落ちぶれちゃったんだなぁってぞくぞくするね』
私はついつい自分の体を抱き締めてくねらせる。ディオさんフルリさんナギ殿の視線が突き刺さって、まるで太い矢に貫かれているみたいだね。
『……おい、ウルシフィ? …………ナニやってんだ?』
『……ちっ。せっかくのいい気分が台無しだ。空気の読めない奴だな熱血馬鹿ルシフェルめ。だから熱血馬鹿ルシフェルは熱血馬鹿ルシフェルというあだ名がつくんだ熱血馬鹿ルシフェル。熱血馬鹿ルシフェルは熱血馬鹿ルシフェルらしく馬鹿馬鹿しく馬鹿なことをやっていろ熱血馬鹿ルシフェルが。空気も読めない女心も読めない男心もわからないじゃあ友人なくすぞ熱血馬鹿ルシフェル。愛すべき馬鹿ならともかく、熱血馬鹿ルシフェルはただの馬鹿であり熱血馬鹿ルシフェルでしかないんだから身の程と言うものをわきまえなよ熱血馬鹿ルシフェル』
『熱血馬鹿ルシフェル熱血馬鹿ルシフェルうるせえってんだろ!? なんだよお前俺様のこと嫌いかよ!?』
『……好かれてると思ってたの? は!あ・り・え・な・い・ね!自意識過剰もいい加減にしなよ熱血馬鹿ルシフェル。私はマルシファーやアルシフスみたいに優しくないんだ。常識的に考えて私がお前のことを好きであるわけが無いのと同じくらい、太陽が西から昇ったりアルシフスがブレイクダンス踊ったりするのと同じくらいあり得ない勘違いだね? 削られたら?』
『ちくしょぉぉっ!!ウルシフィのバーカバーカ!アルシフスに埋め立てられちまえ!』
……まったく。虚しい勝利だね。
…………ちょっと、私の目の前で起きている出来事が信じられないんですけど。
ディオさんを見てみる。けれど、特にこれといって変わったところは見えない。それはフルリさんもおんなじだけれど、誰も喋ろうとはしない。
もう一度ディオさんを見てみると、今度はディオさんと目が合う。頷かれてしまった。これは、現実だと。
……しかし、それでも信じられない。だって、自称・変態淑女のウルシフィが、苛められることに快感を感じ、放置されることに喜びを得て、痛め付けられることに喜悦を隠せないようなウルシフィが、他の誰かを罵倒しているんですよ?
……これは夢ですか? だとしたら、すごい悪夢なんですけど。
「夢ではない、現実だ」
「夢であって欲しかった!悪夢でもいいから夢であって欲しかった!!というかもう悪夢であって欲しかった!!!」
「……諦めろ。人生は諦めと執着の切り替えが大切だ。諦めるべき所で諦めず、執着すべき所で執着すればそれなりに平穏に過ごせる」
「ディオの場合は平穏に過ごしても私に日に何度か壊されるのだがな」
「そんな平穏は嫌ぁ…………」
最近よく泣く寺島渚の異世界旅日記