異世界編 2-69
「~~♪ ~~~~~♪」
私の視線の先に居るのは、上機嫌に小さく鼻唄を歌いながら真っ赤な溶岩に釣糸を垂らしているフルリさん。
どうしてここに居るんでしょうか? 私、かなり頑張って走りましたよ? 馬を潰す勢いで使って三日ほどかかるところを走って一日とほんの少し。それだけしか時間をかけていないのに、どうやって私達に先回りをしたんでしょうか?
ディオさんは落ち込んでいる私を優しく抱き締めながら頭を撫でてくれていますが、よく見てみるとその目はかなり本気で諦めている目をしていました。
……まあ、理由はわかりますけど。私もおんなじ人が原因で心が折れそうですし。
「……そんなところで見ていないで、こっちに来たらどうだ?」
そうこうしている内に、私達はフルリさんに気付かれてしまった。いや、本当はもっと速く気付かれていたのかもしれないけれど、少なくとも私たちがフルリさんに気付かれたと思ったのはその時のこと。
そして、フルリさんに呼ばれているのにそれを断れるはずもなく、私とディオさんは言われるがままにフルリさんの座っている近くに歩を進めるのでした。
……くすん。まだ死にたくなかったです。←既に過去形。
意外と優しい人でした。表情はわかりにくかったけれど、それはディオさんにそっくり―――正確には、ディオさんがフルリさんに似ているのですが―――だったので、何となくですが読み取る事ができました。
なぜかディオさんに対する想いを知られていましたが、これもきっとフルリさんなら仕方がないことなんだと思います。だって、フルリさんですから。ディオさんのお母さんですから。
『あははは、久しぶりだね黒い少女改めフルリさん。こう呼んでもいいよね? 答えははいかハイかイエスの三択しか受け付けてないけど。ところでここに居るってことはカルシフェルの熱血馬鹿には会ったのかい? あいつは元気にしてた? 元気じゃないならからかいに、元気ならもっとからかいに行くつもりだから教えてほしいんだ』
「……ああ、風のウルシフィか。私の記憶では割と最近会ったような気もするが、久しぶりと言うならそれでいいだろう。カルシフェルは前に会った時と同等に元気にしていたぞ。あまりに五月蝿かったから殴ってしまったが」
『ええっ!? 私の事は殴ってくれないのにカルシフェルの事は殴るの!? 酷いよ!差別だよそれは!』
「……これの最後だけを聞いて、自分を殴ってほしいからそういうことを言っていると気付ける者は何人いるんだろうな…………」
「……きっと、私達と一緒に行動する人以外はわからないと思いますよ? …………私、よっぽどじゃないと仲間を増やす気はありませんけど」
ええ、増やす気はないです。だってこの世界の人達って基本的にがつがつしていて怖いんです。何故かディオさんはそういったものは見られませんけど……フルリさんを見ていると、それはフルリさん譲りではないかと思います。フルリさんも大抵のんびりしているみたいですし。
瑠璃達の掛け合いをナイアと一緒に一歩引いて眺めているけれど、瑠璃以外はその事に気付けないようだった。
姿を態々隠そうとしているのではなく、いつもの状態でそれなので、この子達だけで(一応)魔王を倒せるのかと、少しだけ心配になった。
けれど、それがすぐに不必要な物だと考え直した。
なぜなら、瑠璃がこの二人の淡い恋の行方に興味を持っているから。
恋が成就するも儚く散るも、生きていてこそなる話。ならば、瑠璃はこの二人を事故や魔王なんかに殺させることはないだろう。それでは恋の行く末がわからなくなってしまうし、瑠璃だけでなくナイアもつまらないだろうし。
《……フルカネルリっテー、優しかったり意地悪だったり、子供みたいだったり老人みたいだったりデー………わからないよネー?》
ナイアがいきなり、あまりにも当然の事を言い出した。
「……当然じゃなぃ……だって、瑠璃だものぉ……♪」
《……そうだネー》
くすくす、けらけらと笑い合う。こんな時間も、なかなか楽しい。
「……ふふふふ……♪ ………それにぃ……そうだからこそ、瑠璃と一緒に居るんでしょぅ………?」
《まあ、そうだネー。ボク達邪神とフルカネルリがよく似ているっていうのも理由の一つには入るけドー、一番は見てて楽しいからだネー》
また笑いあって、どちらともなく瑠璃を見つめる。
自分が育てた異世界の魔法生命体と、異世界のさらに異世界生まれの少女の姿を、それと気付かせることなく解析している。
今までも鏡越しに解析はしていたけれど、そのときと比べてずいぶんと丁寧に深いところまで観察していると思ってはいた。しかし、わたしはその子達にわざわざ忠告してあげるほど優しくはないし、瑠璃がそれでいいなら肯定する。
…………この世界に来てからしばらくして、わたし自身も瑠璃に解析されちゃったと言うこともあるのだけれど。
……なんにしろ、わたしは出来る限り瑠璃と一緒に居たいし、瑠璃もわたしを拒絶しないでくれている。それなら、わたしはわたしに出来る限りの事をして瑠璃と一緒に居よう。そう思う。
《まあ、良いんじゃないかナー? ボクもアザギの事は嫌いじゃないシー、アザギが一緒に居たいならそうすればいいヨー》
……ありがとうねぇ……♪
純粋亡霊アザギさん。そしてその暴走フラグ。