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異世界編 2-66

 

戦闘開始の合図と共に、私はとりあえず母さんを中心とした火焔の竜巻を作り上げた。

それは天高く登り、雲を散らし、地を焼き払って余りあるものだったが……私は次の魔術の詠唱を始める。


作り上げるのは巨大な水塊。これを火焔の竜巻の中に放り込んで水蒸気爆発を起こせば、母さんの着ている服の端に焦げ目の一つくらいはつけることができるだろうと思いながら魔術式を精霊達に組み上げてもらう。

それを撃ち込むと同時に体勢を整え、衝撃と爆風を緩和するための風の魔術を起動する。


水が現れ、一気にその体積を増やして周囲を荒らして回る。使った私にもかなりの衝撃が襲いかかるが、爆心地で直撃を食らった(と思われる)母さんよりはダメージは…………。


―――思い出すのは昔のこと。私が追い回されていた結晶の鎧を持った獣を、片手を突き出すだけで止めた母さん。


―――魔術の実験の際、どの程度まで魔力を込めてもしっかり起動するかの実験中に、爆発に巻き込まれても平然としていた母さん。

―――当時の私の最大威力の火焔の槍を片手で受け止め、火傷の一つもしていなかった母さん。


―――結論。私の自爆だったな、これは。


その思考を肯定するかのように、周囲を結界ごと凪ぎ払った爆発の中から何の痛手も受けていない、無傷の母さんが姿を見せた。


…………まあ、母さんだし……仕方がないな。




「……ふむ。中々良い炎だったな。熱量もあったし、集束率も十分だ」

「……その中々の炎の直撃を食っても傷ひとつない姿で言われても、自信を失うばかりだと思うのだが」

「前にも言っただろう。そんなことで無くなってしまう自信など、さっさと捨ててしまえ」


母さんはやはり凄まじく理不尽だ。一応あの火焔にはかなりの魔力を込めたのだが……。

………正直、勝てる気がしないが……負けたら死ぬと言うわけでもなし、砕けるつもりで闘うとしよう。

手始めに、母さんがどうやってあの火焔と爆発の衝撃から身を守ったのかを見破るとしよう。できなければ、則ちそれは私の敗北だ。


母さんは強い。それは認めよう。

しかし、だからといって負けたいと言う訳ではないのだ。

闘うからには勝ちたい。負けたくない。それは私にも普通に存在する思いだ。


私は構えを突き主体の物に変える。母さんはその黒く長い髪を靡かせていることから、恐らく風の防壁で竜巻も爆風も衝撃も受け流したのだろう。

そして、それが私に知られていることも予測しながらも、私の事を面白そうに見ている。

身体強化、速度と力を水増しし、反射と動体視力も底上げする。

燃費の事は考えない。そんなことをしていたら、あっという間に追い詰められてしまう。


母さんは動かない。私がどんな事をしてこようといるのかを、楽しそうに眺めている。

その間にぎりぎりまで準備をして、一気に発動する。

先程使った火焔の竜巻を圧縮し、風を入れて熱量を上げ、威力のみを重視したその魔術を分裂させ、私の周囲に待機させながら、限界まで熱量を上げる。


「……準備はできたようだな」


母さんの言葉に頷きを返し、両足に力を込める。

一番始めに全力を叩き込まなければ確実に負け、叩き込めたとしても確実性は無く、そもそも当てられるかどうかすら不確定。

……だが、恐らく母さんは私の力を見てみたいと思っているだろう。そう思わせるためにあれだけの魔力を削ってまであの魔術を使ったのだし、それでも避けられたなら運がなかったと思って諦める。


全速力で母さんに突撃し、私の周囲を飛び回っていた火焔の玉を腕から剣に沿っての螺旋を描くようにしてさらに集束させる。

そのまま母さんへと近付き、集束させた火焔の点を剣先から迸らせるように突きを放つ。


その点は母さんに直撃し、巨大な爆炎を生み出した。


結界がビリビリと震動し、ギシギシと軋みをあげている。誰もが母さんの命を心配している中で、私だけは別の事を考えていた。


「………………化物か」


ぽつり、と。誰にも聞こえないほど小さく呟いたのだが、どうやらその言葉はすぐ近くの存在には聞こえていたらしい。


「私は一応人間だ。化物じみているのは認めるがな」


火焔が一瞬にして消し飛び、そこには無傷の母さんが何事もなかったかのように立っていた。

その服にすら焦げ跡はなく、私の剣は母さんに触れる前に透明の壁のようななにかによって阻まれ、届いていなかった。

母さんは美しい笑顔を浮かべてナイフを仕舞い、くっ、と右手で拳を作った。

それを見て私は下がろうとしたが、いつの間にか身体中に土の束縛がかかっていたため動けない。


「…………ふむ。今のは良かった。もう少しで障壁が抜かれるかと思ったぞ?」


だから、と母さんは続け、


「このくらいなら今のお前でも、まあ、平気だろう」


次の瞬間。私の体と意識は土の束縛を弾き飛ばし、空高くへと飛び出していった。






予想を超えて成長していたディオの相手をするのは、中々に面白かった。

長い間生きていると、やはり頭の中では勝手に固定観念が出来上がってしまうらしい。昔の研究内容をほじくり返してみれば、確かに先程ディオが使ったような形の理論があった。

それを教えることはしていないが、ディオは自分でそれを見つけ、そして実用の域まで組み上げたらしい。

魔術で新しいものを組み上げるのは大変だったろうに、それでもやりとげて見せたディオの事を、素晴らしいと思う。


だからこそ、私はディオに新しい力を与えてやろうと思った。

拳に乗せて、邪神に加護を受けている私の作った、六体の結晶の竜の加護を。



  とても楽しそうなフルカネルリ。




《……いや、いくらなんでも死んじゃうと思うヨー? だってほラー、原型保ってないシー?》


……む? やり過ぎたか。

さて、治療に行くか。魔法でできているディオの体なら、完全に消滅していても作り直せる。原型を残していないとはいえ、残っているのならさらに楽に治すことができるしな?




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