異世界編 2-65
ディオさんの試合が終わり、私の番が来る。
そう言えば、この大会に参加した理由は私のガス抜きのためと、自分がどのくらい強いのかわからない私にどの程度かを体で教えてもらうためだった。
だから、私はこれからはもっと強くしていこう。けれど、殺さないように力を抑えて動こう。
自分の力を知るために、他の人の力量を知るために。
何より、私が魔王を殺すときの予行演習として、私はこの剣を振るうことにしよう。
もう生き物を殺すのにも慣れてしまった。ちょっと前までは私とディオさんの二人で狩った魔物を料理して食べていたし、襲ってきたのは向こうからだけれど、殺人の経験もある。
こんな私が自分のことを考えるのはおこがましいのかもしれないけれど、それでも私は元居た平和な世界に帰りたい。
―――だから、ごめんなさい。私は、あなたの思いをへし折ります。
―――あなたの意思を踏みにじり、自分の通る道の足場にします。
―――許してくださいなんて言いません。けれど、私はそうして作った道を歩きます。
―――そして、私は私の願いを叶えます。
―――他の誰でもない、私のために。
そうして挑んだ二回戦でしたが、開始直後に相手の男性が
「ギブアーーーップ!!ムリムリムリムリムリムリムリムリ勝てる気しねぇぇぇ!!」
……と、叫んだことにより終了しました。勝ったのは私なのに、何だか私が負けたような気分になりました。
……くすん。
…………いえ、泣いてなんていませんよ? ちょっとくしゃみが出そうで出なくて形だけでも出してみただけです。そういうことにしておいてください。
ちなみに、なぜか相手の人がそう叫んだ直後にどこかから
「ならば貴様が死ねぇぇぇ!!」
という叫びが聞こえ、なぜか空から大きな薙刀(大刀って言うんでしょうか? 漫画で関羽さんや張遼さんが持っていた物とよく似ています)が降ってきてその男の人を貫きました。
するとその男の人は五秒ほど苦しそうな声を上げながら悶えていましたが、
「……仕方ねえか。あいつの期待に答えられなかったしなぁ…………」
と言って、死体を残さず消えてしまいました。どうやらあの男性は魔族の方だったようです。変身魔術でも使っていたのでしょうか? あまり違和感がありませんでした。
ちなみにディオさんは薄々気が付いていたようで、危なくなったらルールを無視して乱入する予定だったそうです。こんな時まで私の修行に使うなんて、ある意味では流石ディオさんと言うべきでしょうか。
魔族とは基本的に人間に比べ体の性能がかなり高く、その為か身体能力などの性能に任せてのごり押しと言う戦いの運び方をする。
そして強者は素直に称賛し、力を持つものにこそ頭を垂れる。そんなある意味では獣のような者達の集まりが魔族と言うものだ。
《率直に言っちゃうと脳筋のお馬鹿さんなんだよネー》
『……こぉらっ、いくら本当のことでもぉ……言って良いことと、悪いことがあるのよぉ……?』
《それフォローになってないからネー!?》
全くだ。
だが、ナイアが言ったことは別に言ってはいけないことでは無いだろう?
『……ふふふふ……♪ ……もちろんよぉ……♪』
《なら言わないでよアザギー!フルカネルリもサー!》
すまんすまん。悪気はあまり無いんだ。
《ちょっとはあるノー!?》
はっはっはっはっはっは。
…………さて、次は私とディオの試合だな。まだ二回戦の第四試合が終わっていないが、恐らく向こうから勝ち上がってくるのはナギとやらだろうし、気にする事は無いだろう。
《無視しないでヨー!泣くヨー!? いい歳した邪神が恥も外聞もなくみっともなく泣き喚くヨー!?》
ならばその涙は私の研究室にある小さな無色透明のフラスコにでも入れておいてくれ。後で解析してなにか特殊な効果がないか調べておきたいのでな。
『……瑠璃のスルースキルはぁ……世界一ねぇ……♪』
この世界に限定すれば、その通りかもしれんな。
「さて、ディオ。久し振りに稽古をつけてやろう」
「……よろしくお願いします。母さん」
私はディオと向き合い、武器を取り出す。武器と言っても銃ではなく、ディオを相手にしているときによく使う大型のナイフを二つだが。
このナイフ二つは元の世界の軍用ナイフを元にしてソードブレイカーとしても使用することができるように改造してある。硬く、固く、堅く、とにかく頑丈に頑強に堅固にしつこいまでに強化を繰り返しているため、加減したとは言え衝撃を零距離から三十七発ほど撃ち込んでも折れも曲がりも歪みもしなかった。
そんなナイフを両の手に、私はディオに意識を向ける。構えは無し。構えないという構えをして、試合開始を待つ。
流石にこのナイフでディオが今使っている長剣を折ることは難しいと思うので、少々戦闘方法を変えねばならないが…………ディオ相手ならナイフで十分だろう。
さて、と。始めるとしようか。
フルカネルリvsディオ、戦闘(訓練)開始。