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異世界編 2-64

 

傷付いた人達を回復魔術で治してから、すぐに二回戦が始まった。


最初はあの黒い少女と戦鎚使いらしい女の人。黒い少女はやっぱり何も持っていないように見えるけれど、確かにあの速度で魔術を……いや、魔法を扱えるなら必要ないね。

そう考えていると、女の人の方が武器に魔力を込め始める。術式から見てみると、ただの武器の強化に見える。


けれど、それと同時に自分の肉体強化の術式を小声で何度か繰り返して詠唱して足りないところを補いながら、術式の欠けていないところを組み合わせて作り上げた身体能力の強化術式を使っているのを見て、少しだけわかっているのだと認識を改める。

身体強化を終わらせて、黒い少女を睨み付ける女の人の武器の頭から、ファルシオンのような肉厚な片刃の剣が姿を見せた。


…………この人間は、黒い少女にどこまで食い下がることができるのか。少しだけ、興味が湧いてきた。




黒い少女はどうやら身体強化の魔術は使う気がないらしい。まあ、確かに素であれだけの身体能力を持っているのならわざわざ強化する事もないと思うけど。


試合開始と同時に女の人が黒い少女に向かって飛び出す。そして戦鎚を振りかぶって、一気に黒い少女に叩きつけた。

ゴガンッ!という大きな音が響き、試合場の床に大きな皹が入った。けれど黒い少女はそれをすり抜けるように避けていて、女の人の武器を興味深そうに観察しているように見える。

そのためか魔術も魔法も使っていないし、いまだに一度も攻勢に出てはいない。それを理解しているのは、本人達とディオさんとナギ殿と私。それともう二~三人くらい。


女の人の顔が悔しそうに歪むけれど、黒い少女は観察するような視線を向けるのをやめない。明らかにその女の人を見ていないし、試合にも集中していないのがまるわかりだ。

けれど周りの人達は、女の人が黒い少女を追い詰めているように見えるらしい。司会の人間も、色々と言いたい放題言っている。


…………私は知らないよ? 何があっても自分達の責任だからね?


ひらりひらりと動き回っていた黒い少女が急にその動きを止めた。いったい何があったのかと思って見てみたのだけれど、単純に黒い少女がそろそろ終わらせる気になったというだけらしい。

それに気付かない女の人は、自分の武器である戦鎚を黒い少女に向けて振り回す。

当たる部分は、飛び出している片刃。普通なら体が横に両断されてしまうのだろうし、振り回した女の人も慌てたような顔をしているけれど、黒い少女に限ってそう言った心配は無用だろう。


黒い少女はするりと手を伸ばして刃の腹を上向きに弾き上げ、柄に腕を絡めて武器を奪い取った。

そして奪い取った戦鎚を片手の指先でくるくると回しながら、初めから全く変わっていない無表情で女の人を見据えた。


「……まだ、やるか?」


気付かないうちに武器を奪われて丸腰になった女の人は、悔しそうな顔をしながらギブアップ。黒い少女の勝ちになった。


…………賭け、しておけばよかったかな?






「……あれが私の母さんだ。勝てると思うか?」

「ちょっとどころじゃなく無理ですね。あれ本気じゃないとかそんな話じゃなくて、戦っているという意識も相手が敵だっていう認識も持っていないんじゃ?」

「いや、敵だという認識は持っている。その上で研究を優先しているだけだ」


ディオさんの言葉に、溜め息が出る。いやいや、あれに勝つなんて人間じゃあ無理ですって。

敵対していないならなんとかなると思ったけれど、武器を向けたら確実に敵だと認識されて技術や情報を研究ついでに奪われ、最後には魔術の実験台にされてしまったりとかする気が……。


「されるぞ。と言うか、したことがあるらしいぞ」

「された人がいるんですか!?」


私が言った言葉を聞くと、ディオさんは少しなにかを思い出すような顔になった。

それから何があったかを聞いてみたのだけれど………融合術式で虫と人の合成体を作ったり、樹と人の合成体を作って種を採取してみたり、掛け合わせてなにか新種ができないかを確かめてみたりしていたらしいです。


じ……人体実験はちょっと…………しかもかなり外道なことをしてますし……。


……あんなに可愛い顔をしてるのに……もったいない…………。




次はディオさんの試合です。頑張ってくださいね!


『いやいや、ディオさんが頑張ったら大変な事になると思うんだけどね? 例えば、‘気がついたら相手は物言わぬ肉塊になっていた、しかしその肉塊は鼓動と共に収縮を繰り返し、ギリギリで生きていることを私達に知らせてくる。殺してはいないため勝利したが、対戦者の仲間たちに恨みを持たれ、闇討ちされる’……とか、大魔術を連発しすぎて観客を巻き込み、八つ当たりの相手がいなくなる、とかね。ちょっと困るんじゃないかな?』


うん、それは少し困る。目立つと何をされるかわからないと言うことは、元の世界でもこちらの世界でもきっと同じだろうから。



  それでも止めない寺島渚とウルシフィ。




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