異世界編 2-60
予選の内容は、この町のどこかにある二百五十六枚のプレートのうち四枚を集めてくることであるらしい。
もちろんこの時の手段は自由。集めてきたやつから奪うのも良いし、人を雇って人海戦術を使うのも大丈夫。当然自分で探すのもいいし、五枚以上持っているやつから買いとるのも反則ではない。
しかし四枚未満であればそれが三枚だろうが零枚だろうが失格。挑戦権は与えられない。戦いだけしか脳のない者達はここで脱落していくか、もしくは奪い取ることに成功するかのどちらかだ。
「まあ、私達には一切関係ないことだがな」
「そうですね。……ウルシフィ? 集まった?」
『ちょっと待ってくれないかな? あと五枚で十段ピラミッドができるから』
「「さっさと戻ってこい」」
……やれやれ。
ウルシフィが持ってきた五十枚のうち八枚を私達の参加用として提出し、残りの四十二枚は売り払う。
「はいいらっしゃい、大会指定のプレートだよ。一枚金貨一枚、二枚で二枚半、三枚なら四枚、四枚なら五枚だ。四十枚しかないから早い者勝ちだよ」
「二枚!二枚くれ!」
「四枚だ!」
うむ。中々にいい商売だな。ぼったくりと言えばぼったくりだが、誰も損をしないやり方だ。
買った相手は合格確率が上がって嬉しい、私は労せず金が入ってきて嬉しい、買えなかった相手は残念だが、恐らく探してくればなんとかなるだろうしな。ならなかったらそれはそいつの力が足りていなかったというだけだ。
「はいそっちは金貨二枚と半金貨ね。そっちは金貨五枚。はい、毎度」
ふむ、どんどん金貨が増えていくな。だが、そろそろ売り切れだ。暴動が起きそうだし、さっさと隠れるとしようか。
「以上で売り切れだ。それでは後は自力で探すと良い。行くぞ、ナギ殿」
「はい」
後ろから怒号が聞こえるが、私とナギ殿、そしてウルシフィはそれらを全て無視しながら予選会場から走り去ったのだった。
「よかったんですか?」
「なに、ルールに商売をしてはいけない等という物は無い。ゆえに問題ない」
「……そ………そうかなぁ……?」
さてな。実際問題無いとは思うが、どうだろうな?
フルカネルリだ。現在、私の周囲には色々な者達がいる。
プレートを探すのに部下を使っている者。
とりあえず周囲の人間を傷付けてリタイアさせて倍率を下げようとしている者。
どうやったのかプレートを隠した大会の役員を締め上げてプレートの隠し場所を聞き出そうとしている者。
プレートを大量に集めて商売をしている者。
プレートを自力で見つけて提出した者。
ついでに、多めに見つけたプレートを隠し持っている者。実に様々だ。
……ちなみに私は最後の部類に入る。集めたプレートは二十枚程度だが、それだけでも四人が通過できないと言うことになる。四枚集められる者はただでさえ少ないだろうに、これではどうなることやら。
……まあ、私にはそんな者達の事は関係無いな。今の私の興味は、この世界の神の創った魔法生物と異世界の人間の恋の行方に絞られている。
《まあ、確かに気にはなるよネー》
そうだろう? 何より、私の育てた初めての手のかかった息子の事だぞ? 興味がないわけが無いだろう。
『……あらぁ……? 普通の子は、昔居たんじゃなかったかしらぁ………?』
……昔は研究に夢中になっていて、全く手をかけていなかったのだ。全てが昔の妻任せで、私は研究の成果を雇い主に提出して与えられる金の半分を渡すくらいの事しかしていなかったのだ。
……最悪の父親だな。私は。
そしてそんな最悪な私を愛した妻と、私に懐いていた息子は……最後までその生き方を変えなかったな。変わっていればもう少し楽に生きていけただろうに。
《でも、フルカネルリも自分の生き方を変えないんでショー? 例えその道が滅びに繋がっているとしても、ずっとサー》
『……瑠璃だものぉ……変えられないでしょぉ……?』
……その通りだ。私はフルカネルリ。もうこの生き方は体の底を通り越し、魂にまで焼き付けられているだろうさ。私では永久に変えられん。
…………そして、変える気も更々無い。私は私だ。誰になんと言われようとな。
《それでこそ、かナー》
そんな私を見てナイアが笑った。アザギもそれにつられて薄く笑い、私も声を抑えて笑った。
……さて。もう私はここには用はない。明日の昼に合格者の名前とトーナメント表が貼り出されるようだし、それまでのんびりと害虫駆除に精を出すか。
ディオとの会合まであと少し。