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異世界編 2-59

 

出場前に色々と鎧に仕込むものを仕込んでおく。

それは例えば目潰しであったり撒き菱であったり棒手裏剣のような暗器であったりするが、まあ、恐らく使うことはないだろう。

……おかしいな? 早々無いはずなのだが、なぜか使うことになる気がする。

まあいい。今は大会に集中しよう。でないとどのように足元を掬われるかわかったものではない。




ルールの確認をする。

武器に関する制限は一切なし。

相手を気絶させるか場外に放り出せば勝ちだが、殺すのは反則。

制限時間は三十分で、それまでに決着がつかなかった場合は審判が勝者を決定する。

金的、目潰し、武器破壊、戦闘中に相手の武器を奪い取る等も許されているし、後で返す必要もない。

武器を破壊されたり奪われた場合、そのまま戦うこともできる。戦いたくなければ降参すればいい。


……なるほど。炎の大陸の大会とは全然違うな。向こうのはもっと荒っぽかったし、殺害されたらされるような実力しか持たないそいつが悪いといった風潮だったし。

……さて、予選会だ。気を引き締めて行くとしようか。こんなところで負けてしまったと母さんにバレたら…………、

…………忘れろ私。全力で忘却の彼方に放り出せ。それは思い出してはならない類いの物だ。


「ちょ、ディオさん? 顔色が悪いですよディオさん!?」

「……いや、大丈夫だ。それより、ナギ殿の準備は終わったのか?」


私がそう聞くと、ナギ殿はにっこりと笑ってその場でくるりと回ってみせた。


「はい。準備は万端です」

「相手が毒を使ってきた時のための解毒薬は?」

「解毒魔術をキーワードで発動できるようにしたのを二十個ほど用意してあります」

「回復魔術は?」

「三十ほど」


ふむ。まあ、いいだろう。私でもその程度しかやらないし、足りないと思ったらその場でも使えるしな。


「なら、そろそろ行くか」

「はい。ディオさん」




予選会場には数千とまでは行かないにしろ、確実に千数百という数の人間が集まっていた。

男もいれば女もいる、若いのから青年、中年と言えるものまで年齢層も様々だ。

『そりゃこの大陸で御前試合に次いで二番目に大きな大会だし、このくらいの人数は集まるさ。強いの弱いの天才秀才凡人化物色々とね。ちなみに賭けもやってるみたいだよ? 一口銀貨十枚から百口までが公式ので、非公式なやつはそこらじゅうにあるみたい。参加してみる? するなら私がかわりに賭けてきてあげるよ? 選手はこういう賭けに参加できないみたいだしね。何口賭ける?』

「賭けは好きじゃない。割りに合わないからな」


実際そうだ。母さんならほぼ百発百中で当ててみせるのだろうが、私はそんなことはできない。

……私が賭けに弱いのではなく、母さんがおかしいのだ。何故コイントスを見もせずに八十回連続で当て続ける事ができるのだ?

…………母さんだからだな。そうに決まってる。

うむ。母さんなら仕方ない。むしろ当たり前か。

…………はぁ……。






ディオさん達が会場でため息をついているのを風を通して感じ取る。私はこの場で有望な選手を探しているが、あまりたいした人はいないように見える。

無駄に高価そうな槍を持っていたり、装飾の異様に多い剣を自慢げに見せびらかしている人間達は、ディオさんにもナギ殿にも早々届かないだろうという程度の力しか感じ取れない。

これなら、ディオさん達の一騎討ちで勝った方が勝つのか―――ッ!?


ぞわり、と危険を感じてその方向を見ると、どこかで見覚えのある黒い髪の少女が私の事を見上げながら、にっこりと笑っていた。


…………あっちゃあ……これは無理かな。

そんなことを考えていると、その少女に手招きで呼ばれた。いったいなんなんだろうね?




「ふむ。久しいな」

『……そうだね。何百年ぶりかな?』


黒い女の子は私の前で無表情を崩ずに言う。前に会ったときと同じ、何を考えているかわからない顔だ。

この女の子はびっくりするほどアリバっさんに嫌われている。そのせいか小さな精霊達もこの娘には近づかないけれど、私達とは違う系統の精霊が常に周囲に存在しているため、魔術は使えているみたいだ。

その少女は、昔々に私達がこの世界の管理ができなくなるほど弱ったときに力を与えてくれた少女。かわりにちょっとした加護を与えたのだけれど、どうやら多少精霊との親和性が良くなった程度であまり変わりはないらしい。


『……それで、私に何の用かな? 君が何の意味もなく話しかけてくるような存在じゃないって言うのはわかってるから、わざわざ隠す必要は無いからね』

「当然だ。何故私が伝えたいことを隠さねばならん。馬鹿らしい」


やっぱりこの娘は変わってる。けれど、つい最近こういう雰囲気の人間に出会ったような……ああ、ディオさんか。


「さて、お前も用があるようだし、さっさと終わらせるとしよう。……息子に力を貸してくれて、感謝する」


………………は? 何の話? と言うか、息子? この娘、息子が居たの? じゃあ男親の方は誰? ロリコン? ロリコンなの? 幼女趣味なの? わーいへんたいさんだーこわーい。童女性愛者じゃないだけいいのかな? いやいや幼女性愛者も童女性愛者も質が悪いことには変わり無いよね?

……そんな風にぐるぐるぐるぐるとふざけた考え事をしていると、黒い少女は呆れたような目で私を見ながら軽く溜め息を吐いた。


……あれ? おかしいな、妙にゾクゾクしてお腹の少し下の器官がきゅんっとしたよ? 今までディオさんとナギ殿にしか反応したことがなかったのに。何があったのかな?


「何か馬鹿なことを考えているな? 私は独身だし、処女だ。息子といっても血は繋がっていない」


な、なんだそっか。そうだよね、こんなに小さな体であんなのを受け入れたら、壊れちゃうかも――



 ※ウルシフィによる桃色空間発生中につき、しばらくお待ちください。



ごしゃりと殴られて妄想の世界から戻ってくる。呆れの色はさらに深さを増していて、僅かに苛つきも混ざっていた。


「……まあ、言いたいことは言ったし、戻ってくれて構わない」

『ん? そうかい? それじゃあね』


私は少女と別れて空に浮かび上がり、また厄介そうな相手を探す。


……これをちゃんと伝えたら、ディオさんはご褒美に苛めてくれたりしないかな?



  ディオとフルカネルリ。ニアミス。




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